第88話「香味野菜と、パセリの天ぷら」
深夜2時を過ぎたというのに、まだほんのり熱を帯びた都会の片隅。
「深夜食堂しのぶ」の暖簾が、夜風に揺れている。
ガラガラッ。
戸を開けて入ってきたのは、背筋の伸びた、眼鏡をかけた女性客。
おそらく30代半ば。ビジネススーツの袖を少しだけまくって、ネイルは控えめ。
「こんばんは、おかみさん。……やってる?」
カウンター越しに微笑んだのは、おかみさん――忍さん。
厨房の奥には、無口だが優しい眼差しの板前・マサさんがいる。
「いらっしゃい。今日もお疲れさま。飲む前に、ちょっと何かつまむ?」
「うん……。今日はね、子どものころ母が作ってくれた“パセリの天ぷら”が、無性に食べたくなって」
忍さんが少し目を丸くする。
「……パセリの天ぷら?珍しいわね」
「うち、母が香味野菜好きで。三つ葉とか、セリとかも天ぷらにしてた」
それを聞いて、マサさんがすっと立ち上がり、冷蔵庫へ。
香味野菜の中から、春菊、みょうが、大葉、パセリなどを取り出していく。
ジュッ……と油の音。
静かな店内に、揚げ物の香ばしい匂いが漂う。
やがて、白木の皿に並べられた、天ぷらたち。
・パセリ(茎ごと揚げて、パリッと)
・みょうが(縦半分に切って衣をつけて)
・大葉(裏返して衣で包むように)
・春菊(葉先を軽くまとめてふんわり)
「熱いうちに、どうぞ」
忍さんが天つゆと塩を添えて差し出す。
彼女は目を細め、パセリの天ぷらに箸を伸ばす。
「……うわ、懐かしい……。この香り、この軽さ……母の味に、似てる」
ぽろりと涙がこぼれた。
「ちょっとだけね、疲れてたのかも」
忍さんは黙って、温かい煎茶を湯呑みに注ぐ。
「大人になると、無性に食べたくなる“あの味”ってあるのよね」
マサさんは、黙って追加で一品。
小さな小鉢に、甘酢に漬けた新生姜を添えて差し出した。
「口直し……ありがと、マサさん」
彼女は、ふっと笑って、静かに食べ続けた。
――夜は静かに、優しく更けていく。
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本日のレシピ『香味野菜とパセリの天ぷら』
【材料】(2人前)
パセリ(大きめ1束)
大葉(4枚)
春菊(数本)
みょうが(2本)
天ぷら粉(適量)+冷水
揚げ油(適量)
【ポイント】
パセリは水気をよく切ってから衣を絡めることでカラッと揚がる。
春菊や大葉は、衣は薄めにして“香り”を楽しむ。
天つゆは、出汁:醤油:みりん=4:1:1。すりおろし生姜を加えても美味。
お塩でシンプルに味わうのもおすすめ。
ひとことアドバイス
> 香味野菜は苦手な人もいるけれど、大人になると不思議とクセになる味。
疲れた夜に、サクッと揚げて、熱々を一口。心がふっと和らぎます。




