第81話「素麺で、冷やし担々麺」
――夏の夜、蝉の声も静かになった頃。
「深夜食堂しのぶ」の引き戸が、キィ……と優しく鳴った。
「こんばんは」
現れたのは、リネンのワンピースに麦わら帽子を抱えた若い女性。どこか懐かしい風をまとっていた。
「いらっしゃい。暑かったでしょ?」
店主・忍は、手ぬぐいで手を拭きながら声をかけた。
カウンターには、いつものマサさんが無言で立っている。軽く頷くだけで、いつも通りの安心感がある。
「メニューにはないんですけど……素麺で、冷たい担々麺って、できますか?」
「素麺で担々……おもしろいわねぇ。でも、できるわよ」
忍がニッと笑うと、マサさんは無言で厨房へ。
ゴマの香りが、ほんのりと立ち上り始めた。
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料理の描写
茹でた素麺は、氷水でキュッと締められ、器に盛られる。
その上に――
・ピリ辛の肉味噌
・すり胡麻をたっぷり混ぜた特製ダレ
・刻んだきゅうりと白髪ねぎ
・最後にラー油を一滴。
仕上げは、マサさんの絶妙な手つきで、胡麻ダレが全体に回しかけられる。
「お待ちどうさま。冷やし担々素麺よ」
「わぁ……美味しそう!」
女性は、箸を手に取り、そっと一口。
ツルッ。
冷たくてコク深い。胡麻のまろやかさのあとに、じんわりと山椒の痺れが来る。
「……っ、これ、最高です!」
彼女は一口ごとに顔を綻ばせた。
暑さにやられていた体が、少しずつ元気になっていくような感覚。
「ありがとう……実は、最近ちょっと落ち込んでて」
「夏になると、思い出すんです。亡くなった母が、冷やし中華をよく作ってくれてて」
「今日はなんだか、それを思い出して、食べたくなったんです」
忍は優しく頷く。
「きっと、お母さんもそばにいるわ。美味しく食べてるあなたを見て、安心してる」
女性は、少し目を潤ませながらも、笑顔で箸を進めた。
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あとがきレシピ:素麺で冷やし担々麺
【材料(1人分)】
素麺:100g
豚ひき肉:50g
きゅうり(千切り):1/3本
白髪ねぎ:適量
にんにく・しょうが(各みじん切り):少々
【肉味噌】
味噌:大さじ1
醤油:小さじ1
酒:小さじ1
みりん:小さじ1
ラー油:少々
【胡麻だれ】
白ねり胡麻:大さじ1.5
醤油:大さじ1
酢:小さじ1
砂糖:小さじ1
ごま油:小さじ1
豆乳 or 牛乳:大さじ2(まろやかにしたいとき)
【作り方】
1. 肉味噌を炒める(にんにく・しょうが→ひき肉→調味料)
2. 素麺を茹でて冷水で締める
3. 器に盛り、具材と胡麻だれをかける
4. 最後にお好みでラー油をトッピング
ポイント!
・豆乳を加えるとまろやかでコク深くなります。
・辛さはラー油や花椒で調整してね!




