第75話:骨付き鶏モモ肉の香草焼き
看板の灯りがともるのは、いつも日付が変わる少し前。
商店街の外れ――静けさが染み込んだ裏路地に、ひっそりと佇む店がある。
深夜食堂 しのぶ
メニューはあるが、注文されるのはいつもそれじゃない。
そして、どこか心に穴を空けた客が、ふと訪れる。
この夜の客は、肩を丸めた若い女性。OL風の格好で、化粧も崩れ、足元は少し泥がついていた。
「……マサさん、何か、ガツンとしたの、ください」
カウンターの向こう、無口な板前・マサは、小さく頷く。
「忍さん……お酒も、いい?」
「今夜は特別ってことで」とおかみさん・忍が笑った。
それからしばらくして、香ばしい匂いが店中を満たした。
カウンターに置かれたのは、骨付き鶏モモ肉の香草焼き。
皮はパリッと、身はジューシー。ハーブの香りと共に、レモンが添えられている。
「……すっごい匂い。うまそう……」
一口目を頬張った瞬間、彼女の目に涙が浮かんだ。
「うまい……うますぎる……!」
「今日は……部長に怒られて、彼にもフラれて。なんか、全部どうでもよくなってたけど……」
もう一口食べて、にっこり笑う。
「……この肉は裏切らないなぁ」
静かに微笑むマサ。そして、そっと湯呑を置く忍。
この店は、言葉より、味で寄り添う場所。
今夜もまた、ひとりの客が救われていく。
---
本日のレシピ:骨付き鶏モモ肉の香草焼き
材料(1〜2人分)
骨付き鶏モモ肉…1本(300gほど)
塩…適量
粗びき黒胡椒…適量
オリーブオイル…大さじ1
おろしニンニク…小さじ1
ローズマリー(生 or 乾燥)…1枝または小さじ1
タイム(任意)…少々
レモン(くし切り)…1片
作り方
1. 鶏モモ肉は骨に沿って軽く切り込みを入れ、塩・胡椒・おろしニンニク・ハーブ類をまぶす。
2. フライパンにオリーブオイルを熱し、皮目から焼く。
3. 強めの中火で皮をパリッと焼いたら、裏返して蓋をし、弱火で10〜15分蒸し焼き。
4. レモンを添えて完成。
アドバイス
焼く前に冷蔵庫で1時間ほどマリネすると、さらに風味アップ。
オーブンがある場合、皮目を焼いてから180度で10分ほど焼くとパリパリに!




