第74話「油淋鶏三種盛り」
夜も更けた、街の裏通り。ポツリと灯る暖簾の下――
《深夜食堂しのぶ》は、今日も静かに、温かく迎えてくれる。
「いらっしゃい」
そう言ったのは、おかみの忍さん。ふんわりとした雰囲気で、夜更けに来た人々の心をすっと包むような女性。
その奥で黙々と包丁を動かしているのは、板前のマサさん。言葉少なだが、料理に宿る愛情は誰より深い。
その夜、カウンターには疲れた表情の若いOL、遥が座っていた。
「メニューにないの、お願いしてもいいですか……?」
忍さんが微笑む。
「もちろん。なんにしましょう?」
遥はちょっとだけ笑って、言った。
「……油淋鶏。できれば、お肉でちょっと元気が出るやつ……三種とか、贅沢ですかね?」
マサさんの包丁が、心なしか嬉しそうに動き始めた。
10分後、カウンターに湯気を立てながら置かれたのは――
三種の油淋鶏。
・カリッと揚げた鶏もも肉には、甘酢しょうゆダレと香味野菜。
・豚バラは薄切りを重ねて揚げて、さっぱりレモン風のタレに。
・牛肉はこま切れをまとめて団子状にし、ピリ辛のタレでピリッと。
遥は一口、鶏を口に含む。ジュワっと広がる旨み、じんわり甘酸っぱいタレ。
「……これ、すごく元気出ますね」
ポツリとこぼしたその言葉に、忍さんがそっと笑みを返す。
「頑張りすぎちゃった日は、油と酢で気分変えて。たまには贅沢でも、いいのよ」
遥は豚、そして牛の順に箸を進めた。
その瞳が少しずつ潤んでくるのを、誰も咎めない。
――夜の終わりに、優しさの味。
静かな深夜、背中を押してくれる“ごはん”がある。
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レシピ:油淋鶏・三種盛り(2人前)
【鶏】
鶏もも肉:1枚(大きめ)
酒・塩・こしょうで下味 → 片栗粉で揚げ焼き
タレ(しょうゆ 大1.5、酢 大1、砂糖 小2、ごま油 小1、生姜みじん・長ねぎ・にんにく 各小1)
【豚】
豚バラ薄切り:100g(重ねて折りたたみ、丸く形を作る)
塩・こしょう→片栗粉をまぶして揚げ焼き
タレ(レモン汁 大1.5、ポン酢 大1、砂糖 小1、ごま油 小1)
【牛】
牛こま切れ:100g(片栗粉をまぶし、団子に丸める)
揚げ焼き→タレ(しょうゆ 大1、豆板醤 小1、酢 大1、砂糖 小2)
アドバイス
揚げ油は少量の“揚げ焼き”でOK。肉の種類ごとに火入れを変えるのがコツ。
タレは最後にたっぷりかけて香味野菜を追加することで風味UP。
“ちょい贅沢”は夜中のご褒美に。




