第67話:豆腐の揚げドーナツ
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夜更けの雨音が、静かな裏路地に沁みわたる。
「深夜食堂しのぶ」の提灯が、ぽうっと淡く揺れていた。
その扉を開けたのは、スーツの肩をしっとり濡らした中年の男性だった。
「……やっぱり、ここに来ちまったな」
カウンターの奥では、無口な板前“マサさん”が湯気立つ鍋に火をくべている。
奥からは、優しい笑みを浮かべた“おかみさん”こと忍さんが顔を出した。
「いらっしゃい。何にしましょう?」
「……昔、うちのじいちゃんがよく作ってくれたやつ……豆腐のドーナツって、できますか?」
マサさんは一度目を伏せ、次に忍さんと目配せを交わす。
「木綿豆腐があったはずだよね」
「……ある」
それだけで、物語が始まった。
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カウンターの向こうでは、豆腐をしっかりと水切りしてボウルに入れる。
木綿豆腐に卵を落とし、砂糖、小麦粉。シンプルな素材。
スプーンで生地を落としながら、じゅわっと油の音が上がる。
「そうそう……この音だ。よく、夕方の台所で聞いてたなぁ……」
鍋の中でこんがりと丸まったドーナツは、サーターアンダギーにも似ているが、もう少し不格好で素朴な形。
「できたよ。熱いうちにどうぞ」
目の前に差し出されたそれを、ひとつ手に取り、かじる。
……さっくり。中はふわりとやわらかく、豆腐の優しさが口いっぱいに広がる。
「……うまいな。あの頃の味、思い出すよ。ありがとう」
忍さんは静かにほほ笑み、マサさんは火を落とした鍋に目をやる。
「じいちゃん、ああ見えて頑固だったけど、あれだけは、いつも笑って作ってた」
「きっと、あなたのことが大好きだったんでしょうね」
「……ああ」
時計の針が午前二時をまわる。
男はドーナツの最後のひとつを、ゆっくりと口に運ぶ。
「また、来ます」
「お待ちしてますよ」
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今回のレシピ『豆腐の揚げドーナツ』
材料(8個分程度)
木綿豆腐:1丁(300g前後)
卵:1個
砂糖:大さじ2
薄力粉:120g〜150g
ベーキングパウダー:小さじ1(あれば)
揚げ油:適量
作り方
1. 木綿豆腐はしっかりと水切りして、ボウルでつぶす。
2. 卵・砂糖を加え混ぜ、さらに薄力粉(+ベーキングパウダー)を加えて混ぜる。
3. スプーンで生地をすくい、170℃くらいの油にそっと落とす。
4. 丸く膨らみ、表面がきつね色になるまで揚げて完成!
アドバイス
・粉の量は豆腐の水分量で調整してください。少し柔らかめでもOKです。
・シナモンやきな粉をまぶしても◎
・冷めてもほんのり甘く、朝食にもおすすめ。




