第65話「鮭のパリパリ焼き」
「いらっしゃい。今夜はちょっと涼しいね」
カラン、と戸の音と共に現れたのは、くたびれたスーツ姿の女性客だった。目の下にはクマ、右手にはコンビニ袋。
「……こんばんは。おかみさん、今日も何か作ってくれる?」
静かに厨房から顔を出すのは、無口な板前――マサさん。
彼は黙って頷くと、ぬか漬けの並ぶ棚を見やりながら、食材を確認していた。
「今日は……なんか、魚が食べたい。できたら、サクッとしたやつ。焼き魚もいいけど……」
「鮭があるよ」
そう答えたのは、優しげなおかみさん、忍さんだった。
「それなら、パリパリにしてあげようか?」
◆
やがて、目の前に出されたのは――黄金色に焼きあがった鮭のパリパリ焼き。
「……美味しそう」
女性は箸を取り、まず皮の部分をそっと摘まむ。
パリ……という小さな音とともに、香ばしさが口いっぱいに広がる。
「うまっ……皮、サクサクしてる……!」
口に広がるのは、程よく脂ののった鮭の旨味と、下味の醤油・酒の風味。片栗粉をまぶしたことで、まるで唐揚げのような外はカリッ、中はふんわり。
「ああ……なんか、思い出すなあ。小さい頃、おばあちゃんが鮭の皮だけくれたことあって……変な思い出だけど」
忍さんは笑って、湯飲みにそっとお茶を注いだ。
「変な思い出じゃないよ。大事なひと口って、そういうもんでしょ」
マサさんは何も言わない。ただ、ご飯をおひつからよそって女性の前に置いた。
「……ありがとう。今日、ちょっと仕事がきつくてさ。だから、来たんだ。ここに」
その言葉に、誰も返事はしない。
けれど、湯気と香ばしさが、そのまま彼女の疲れを癒していた。
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本日のレシピ:鮭のパリパリ焼き
材料(1人分)
生鮭の切り身 1切れ
醤油 小さじ1
酒 小さじ1
おろし生姜 少々(お好み)
片栗粉 適量
サラダ油 大さじ1
作り方
① 鮭に軽く塩を振って10分置き、キッチンペーパーで水分を拭き取る。
② 醤油・酒・生姜で下味をつけて5分置く。
③ 片栗粉を薄くまぶし、フライパンで油を熱して中火で両面をこんがり焼く。
④ パリッと音が立つまで焼ききれば完成。
ポイント:
・皮目は最後にしっかり焼くと、パリパリになります。
・仕上げにレモンや七味もおすすめ。




