表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/154

第60話『かまどご飯と、あの頃の手』



 


静かな深夜。


カラン、と暖簾が揺れ、「深夜食堂しのぶ」の扉が開いた。


入ってきたのは、年の頃なら六十手前の、落ち着いた雰囲気の女性客だった。


 


「……まだ、やってるかしら」


「もちろんですよ」


おかみさん、忍が笑顔で迎え、マサさんが無言で頷いて一礼する。


 


「今夜は、かまどで炊いたご飯が食べたくて……。難しいかしら?」


忍は少し驚いたように目を見開くと、ふっと優しく笑った。


「偶然ね。今夜、特別に釜炊きしてるの。おこげもいい感じに香ばしくできてるわ」


 


女性客の目が少し潤んだ。


「……かまどの匂い、母の手の匂いと同じ……」


 


湯気の立つご飯が、陶器の茶碗に盛られる。


表面には黄金色のおこげが広がっていた。


添えられたのは、手作りの梅干しと出汁のきいた味噌汁。


 


「いただきます……」


 


口に含んだ瞬間、女性の手が止まる。


米がふっくらとして甘く、香ばしい香りが鼻を抜けた。


 


「……あの頃の味がする」


ぽつりとそう呟き、彼女は少し笑った。


「母は、口うるさかったけど……ご飯だけは、絶対に手を抜かなかったの」


 


マサさんが静かに、湯飲みに温かいほうじ茶を注ぐ。


忍はそっと、その手を差し出した。


 


「人って、思い出と一緒に食べてるのよね」


 


女性客はしばらく何も言わず、かまどご飯を味わっていた。


その瞳には、懐かしい台所と、笑っていた母の姿が映っていた。


 


 


──そして、深夜の静寂に、小さな茶碗の音が響いた。


 


 



---


《今夜のレシピ:かまどご飯》


【材料】


米 2合


水 適量(基本は米の1.1〜1.2倍)


昆布(5cmほど)1あれば



【手順】


1. 米は30分以上浸水してから、ざるに上げて水を切る。



2. 土鍋または厚手の鍋に米と水、昆布を入れて中火にかける。



3. 沸騰したら昆布を取り出し、弱火で10分ほど炊く。



4. 火を止めて10分蒸らす。おこげをつけたい時は、最後に10秒ほど強火に。




【ポイント】


蒸らしを丁寧にすると、ふっくら仕上がります。


香ばしいおこげは、鍋の底の水分量と火加減が鍵です。



 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ