第54話「選べる炊き込みご飯」
その晩、ひとりの女性客がふらりと戸をくぐった。
白いブラウスにジーンズ。少し疲れた顔で、でもどこか嬉しそうに微笑んでいる。
「こんばんはー……今日は、何があるの?」
カウンターの奥、火を扱う手を止めずにマサさんが言った。
「……炊き込みご飯。好きなの、選んで」
「え? 選べるの?」
奥から、おかみの忍さんが茶目っ気たっぷりに笑う。
「海鮮、茸、お肉――どれも、それなりに仕込んであるの。今日は、気分でいいわよ」
彼女は悩んだ末に、ぽつりとつぶやいた。
「うーん……じゃあ、茸かな。なんだか“秋”って感じがするし」
***
カウンター越しに漂ってきたのは、出汁と醤油と舞茸の香り。
蓋付きの小鍋から湯気が立ちのぼり、そのままお釜ごとテーブルに置かれる。
「炊き立て、気をつけてね」
蓋を開けると、湯気の向こうに、ツヤツヤと輝く炊き込みご飯が現れた。
舞茸、しめじ、椎茸に、ほんのり甘い油揚げ。香ばしい焦げ目も食欲をそそる。
「……うん、すごくいい匂い」
ひと口、口に運ぶと、彼女の頬が緩んだ。
「……なんか、実家思い出すなあ。父さんが山で採ってきた茸で、母がよく炊いてくれたの」
マサさんは黙って手を動かしている。
忍さんは、優しく微笑むだけ。
「ねえ、また来てもいい?」
忍さんが言う。
「もちろん。今度は、海鮮にする?」
「……ううん、次は“お肉”にしてみる!」
そして、彼女はもうひと口、炊き込みご飯を頬張った。
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本日のレシピ:茸の炊き込みご飯(2合分)
米:2合(30分浸水)
舞茸・椎茸・しめじ:あわせて150g程度
油揚げ:1枚(細切り)
醤油:大さじ2
酒:大さじ1
みりん:大さじ1
出汁:適量(炊飯器2合の目盛まで)
▶︎すべての具材を混ぜ、炊飯器で炊くだけ。 ▶︎炊き上がったら、10分蒸らして混ぜる。 ▶︎おこげが欲しい人は土鍋で。
アレンジ提案: ・鶏もも肉を加えて“肉+茸”のW炊き込み
・最後にバターを一片加えて、コクUP
・おにぎりにして焼きおにぎり風にしても◎




