第52話 きんぴらごぼうと、きんぴらサンド
深夜二時を少し回った頃。
路地裏の赤提灯が、今日もぽうっと灯る。
看板には、筆文字でこう書かれていた。
> 「深夜食堂しのぶ」
店内はカウンターが数席と、小さなテーブルが二つだけの、こじんまりとした造り。
そこには、静かに火を扱う板前・マサさんと、優しげなおかみさん――忍さんがいる。
カウンター席に、常連のサラリーマン風の男が座っていた。
顔は少し赤い。酔っているのだろう。
「……ねぇマサさん、きんぴらごぼうって、細い派? それとも太い派?」
不意に投げかけたその問いに、忍さんが笑った。
「また急に、変な話ふるんだから。どっちでも美味しいわよ。ねぇ、マサさん?」
マサさんは、ふっと笑って頷くと、冷蔵庫からごぼうを取り出した。
「今日は……細切りでいくよ」
カウンター越し、じゅわっと香ばしい醤油の香りが立ち昇る。
ごぼうの香り、ごま油の香り、唐辛子のピリッとした刺激が鼻をくすぐる。
やがて、器に盛られたきんぴらごぼうが目の前に差し出された。
「……やっぱ、しのぶのきんぴら、最高だわ……」
一口、口に含んだ男は、目を細めてうなった。
「子どもの頃、お弁当に入ってたなぁ。母ちゃん、いつも甘めだったけど……こっちは大人の味だ」
「それなら……これも食べてみる?」
そう言って、忍さんが差し出したのは――
きんぴらサンド。
トーストした8枚切りのパンに、きんぴらごぼうがたっぷりはさまれていた。
「なにこれ、うまっ!」
思わず声が漏れる。パンの香ばしさと、きんぴらの甘辛が絶妙に合う。
マサさんは、ふと目を細めた。
「……きんぴらは、和食じゃなくても“旨さ”で生き残れる。そう思ってる」
忍さんが笑ってうなずく。
「隠れメニューだけど、常連さんには、特別ってことで」
そんなふうに――
今日もまた、“メニューにない料理”が、しのぶの夜をあたたかくする。
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本日のレシピ:きんぴらごぼう&きんぴらサンド
ごぼう:1本(斜め薄切り or 細切り)
にんじん:少量(千切り)
ごま油:大さじ1
醤油:大さじ1
みりん:大さじ1
砂糖:小さじ1
鷹の爪:1本(輪切り)
フライパンにごま油を熱し、ごぼう・にんじん・鷹の爪を炒める。
しんなりしてきたら調味料を加えて、水分が飛ぶまで炒めれば完成。
トーストした食パンにマーガリンを塗り、きんぴらをはさんでサンドにすれば、
「きんぴらサンド」の出来上がり。
ポイント:パンは8枚切りがベスト! 少し硬めのトーストにするのがコツ。




