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第45話:蜜焼き芋、しずかに甘く



 


静かな夜、提灯の明かりがぽうっと灯る。


その名も「深夜食堂しのぶ」。


看板に書かれた文字は少し掠れていて、それがかえって、時間の流れを優しく包んでいる。


 


入り口をくぐると、ふわっと甘い匂いが鼻をくすぐった。


焼き芋の……それも、どこか懐かしい、焦げる寸前の香ばしい香り。


 


「いらっしゃい。……寒かったでしょう?」


しのぶさんが柔らかく笑ってくれる。


その隣、マサさんが無言で、石窯の火を確かめていた。


 


カウンターに座ったのは、薄いコートに包まれた女性。


年の頃は二十代後半か三十前半だろうか。


コトリとバッグを置いて、ふぅ……と小さく息をつく。


 


「……あの、焼き芋……って、できますか?」


「うん。今ちょうど、熟成させた紅はるかを焼いてるところ。いい色よ」


そう言って忍さんが微笑んだ。


 


石窯の中で、芋が静かに焼けている。


ほくほくじゃない。とろっとした、あの甘い蜜がたっぷりの焼き芋。


 


やがて、マサさんが皿にそっと乗せて差し出す。


包丁で割ると――


 


「……わぁ……」


 


ねっとり、きらきらと光る黄金色の蜜。


湯気とともに、ほのかな甘みが立ちのぼる。


 


ひとくち、口に運ぶ。


 


「……甘っ……でも、優しい……」


 


彼女の表情がほころぶ。


その一瞬で、寒かった夜が少しだけ溶けたように見えた。


 


「今日、ちょっと……きつかったんです。帰り道、誰かと話したくなって」


「また来てくれたのが嬉しいわ」


忍さんが笑う。


 


マサさんは黙って、次の芋を窯に仕込んでいた。


でも、それでいい。ここの優しさは、きっとそんな風に伝わる。


 


「……おかわり、できますか?」


「もちろん」


 


そうして、二本目の芋が運ばれてきた頃、


彼女の頬は、ほんの少し赤く染まっていた。


 


 



---


今夜のレシピ:熟成蜜焼き芋


【材料】

・紅はるか、安納芋、シルクスイートなど、甘みの強いさつまいも

・新聞紙、アルミホイル(オーブンでも可)


【手順】


1. さつまいもは1週間ほど冷暗所で熟成させておくと、でんぷんが糖に変わり甘くなる。



2. しっかり洗い、濡らした新聞紙で包み、その上からアルミホイルでさらに包む。



3. 180~200度のオーブンで90分ほどじっくり焼く。



4. 包丁で割った時に、とろりと蜜があふれてきたら成功!




【アドバイス】

急がず、時間をかけて焼くのが最大のポイントです。

一度冷ました後、もう一度温め直すと、より甘みが引き立ちます。






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