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第43話 翡翠(ひすい)の餃子



夜の帳が静かに下り、ビル街の裏路地にほのかに灯る赤提灯。その暖かな灯に導かれたように、ひとりの女性が扉を開いた。


「いらっしゃい。寒かったでしょ?」


笑顔で出迎えるのは、おかみさんのしのぶ

その奥で黙々とまな板に向かうのは、無口な板前マサさん。優しくも凛とした佇まいの料理人だ。


 


「今日は……餃子、できますか?」


女性は、小さな声でそう頼んだ。

忍は驚いたように目を見開いたあと、ふっと微笑んだ。


「うちの餃子、ふつうじゃないけど、いいの?」


「……翡翠色の、あの餃子。前に来た時、誰かが食べてたのを見て、ずっと気になってて」


忍が頷くと、マサさんが無言のまま、静かに仕込みへと入る。


 


青々としたほうれん草が、熱湯でさっと茹でられ、氷水で色止めされる。

水気を絞ったあと、練り込まれるのは小麦粉と塩、ほんの少しのごま油。


生地は淡く輝く緑――まさに翡翠の色。


 


「きれい……」


彼女が呟いた時、マサさんが手早く皮をのばし、餡を包み込む。


餡は豚ひき肉に、ニラ、キャベツ、そして隠し味の味噌。


 


「うちは蒸してから、軽く焼くの。皮がきれいに見えるようにね」


忍が説明する間にも、餃子は蒸篭でふっくらと膨らみ、仕上げの焼きで軽やかな焼き目がつけられていく。


 


やがて運ばれてきたのは、艶やかな緑の羽根つき餃子。


「どうぞ」


 


彼女はひとつ、そっと箸でつまんで口に運ぶ。


ジュワッと広がる肉汁と野菜の旨味、そして皮のほのかな青さと、もちもちの歯ごたえ。


「……あ、なんか、懐かしい。おばあちゃんの味……」


 


彼女は、小さく笑った。


「子どもの頃、風邪をひいたとき、祖母がほうれん草のお粥を作ってくれたんです。色はちょっと違うけど、なんとなく、思い出しました」


 


忍がそっと温かいほうじ茶を出す。


「記憶の中の味って、不思議ね。いつの間にか、心に染み込んでる」


マサさんは、静かに湯気立つ蒸篭を見つめていた。


 


外の風は冷たいが、店の中にはほのかな青と、懐かしい香りが満ちていた。



---


本日のレシピ:翡翠色のほうれん草餃子


【材料(2人前)】


餃子の皮(自家製):小麦粉150g、ほうれん草1束、ごま油小さじ1、塩ひとつまみ


餡:豚ひき肉150g、ニラ1/2束、キャベツ1枚、味噌小さじ1、塩こしょう


ごま油、醤油、酢、ラー油(お好みで)



【アドバイス】

皮に色をつけるときは、加熱後の水分量調整が重要。水気をしっかり切り、練りながら調整してください。

蒸してから焼くと、翡翠色がきれいに残ります。





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