第42話「肉じゃがコロッケ」
その日も、「深夜食堂しのぶ」は夜の帳に包まれ、ほの暗い提灯が店先を照らしていた。
静かな店内。カウンターには、常連たちがぽつぽつと座っている。
「いらっしゃい」
やさしい声で出迎えるのは、おかみさんの忍。
そして、無口ながらもどこか温かみのある板前、マサさんが、黙々と厨房に立っていた。
カウンターの奥に、若い女性客がひとり、そっと腰を下ろす。
どこか疲れた顔、でも目だけは何かを探しているような光を宿していた。
「ご注文は?」
忍がそっと尋ねると、彼女は少し迷ったように口を開いた。
「……肉じゃがコロッケ、できますか?」
マサさんの手が止まった。だが、すぐに頷き、冷蔵庫からじゃがいもと豚肉、玉ねぎ、人参を取り出す。
「うちの定番ですよ。少し時間かかりますけど、いいですか?」
「……はい。お願いします」
◆
じゃがいもを茹で、ほくほくに。豚肉と野菜は甘辛く炊き、マッシュしたじゃがいもに混ぜ込む。
丸めて、衣をつけて、じっくりと揚げていく。
カウンターの上には、香ばしい匂いが漂い、やがて――
「お待たせしました。熱いうちにどうぞ」
皿に乗った、丸くこんがりとしたコロッケが二つ。キャベツの千切りと、マヨネーズが添えられている。
彼女は、箸でそっと割る。
サクッという音。
湯気とともに、甘辛く炊かれた具の香りがふわっと広がった。
「……いただきます」
一口、頬張る。
衣の香ばしさと、懐かしい肉じゃがの甘みが口いっぱいに広がる。
――思わず、涙がにじんだ。
「……母の味に、似てます」
忍は、そっと笑った。
「思い出の味は、きっと心に残ってるものね」
マサさんは、黙って湯のみのお茶を彼女の前に置いた。
その夜、彼女は黙って、ゆっくりと二つのコロッケを食べ終えた。
そして、深々と頭を下げて帰っていった。
店にはまた、静かな時間が流れる。
忍がつぶやいた。
「やっぱり、あの子、帰ってきてくれてたのね」
マサさんがふっと微笑み、次の仕込みに取りかかった。
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本日のレシピ:肉じゃがコロッケ
【材料(2〜3人分)】
・じゃがいも 3個
・豚こま肉 100g
・玉ねぎ 1/2個
・人参 1/3本
・醤油、みりん、砂糖 各大さじ1
・パン粉、卵、小麦粉 適量
・揚げ油
【作り方】
1. じゃがいもは皮をむいて茹で、マッシュする。
2. 豚肉・玉ねぎ・人参を炒めて、調味料で甘辛く煮る。
3. 水気を切って、じゃがいもと混ぜる。
4. 丸く整え、衣をつけてカラッと揚げる。
5. キャベツやソース、お好みでマヨネーズも添えて完成!
【ポイント】
肉じゃがを作った翌日の“リメイク”にもぴったり。
じゃがいもは水気をしっかり切ると、崩れにくくなります。




