第41話:異国の客と、炊きたてごはん
その夜の「深夜食堂しのぶ」は、いつもと違った静けさがあった。
一通りの客足が落ち着いた頃、忍と板前のマサが、片づけを始めようとした矢先のことだった。
カラン……。
小さなベルの音が鳴る。
扉の向こうから現れたのは、フード付きのロングコートを纏った背の高い人物。
「いらっしゃいませ」
忍がおっとりと声をかけるも、返ってきたのは――異国の言語だった。
ただ、その表情から「お腹が空いている」ことだけは、確かに伝わった。
「マサさん、なにか出せるかしら?」 「うーん……好みも分かんないしなぁ……」
困った二人は、店の“看板メニュー”に決める。
「炊きたてご飯、焼き鮭、卵焼き、お味噌汁。これならきっと、どこの人でも温まるわ」
「了解っす」
湯気の立つ白米に、ふんわりと焼き上げられた卵焼き。皮はパリッと、中はふっくらの鮭。そして、出汁の香りが立つ味噌汁。
客はカウンターに座り、静かに手を合わせると、一口ずつ丁寧に食べ始めた。
その様子に、忍もマサもどこか安心して微笑む。
「……ねぇ、マサさん。あの人、少し不思議な雰囲気ね」
「たしかに……なんか、人じゃない感じも……?」
気づけば、空になった茶碗と器がカウンターに並び、彼の姿は忽然と消えていた。
「あっ……いない!? やられたかも!」
だが、カウンターの上には、時代がかった純金の懐中時計がひとつ、置かれていた。
忍がそっと手を伸ばしたその時――
《ごちそうさまでした。今の私にはこの時代の通貨は持っていません。代わりに、この時計を支払いとして。》
《またいつか、食べに来ます》
まるで頭の中に直接響くような声。
忍もマサも顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれる。
「……不思議なお客さんだったね」
「ま、深夜には深夜の、縁があるってことっすよ」
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本日のメニュー:
炊きたて白ご飯、焼き鮭、卵焼き、お味噌汁
【ポイント】
ご飯は土鍋や炊飯器で炊きたてを。米は洗ったら30分浸水するとふっくら。
焼き鮭は皮をパリッと仕上げるため、最初に皮目を焼くのがコツ。
卵焼きは、砂糖と少量の白だしでほんのり甘く。
味噌汁は、出汁(昆布や鰹)に味噌を溶かす前に火を止めて風味を保つ。
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あとがき
今回のテーマは、「言葉が通じなくても、心は通じる食事」でした。
食べ物って、文化や言葉を越えて“安心”や“感謝”を伝えられる魔法のようなものですね。
異国の旅人との小さな交流、ぜひあなたも味わってみてください。




