表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/142

第4話:焼きおにぎり



 


 その夜も、ぽつりぽつりと、雨が降っていた。

 深夜0時を回った路地裏――暖簾が揺れる、小さな食堂。看板には、手書きでこう書かれている。


《深夜食堂しのぶ》


 


 ドアを開けると、木の温もりが心地いいカウンター。

 奥の厨房に立つのは、無口で笑顔の似合う男――マサさん。

 そして、やさしく客を迎えるのが、おかみさんのしのぶさんだ。


 


 この店、メニューは一応ある。だが、なぜか客たちはみな、「ないもの」を注文する。


 


「焼きおにぎり、できますか?」


 


 そう言ってカウンターに座ったのは、スーツの女性だった。

 30代半ば、濡れた髪を指で払う姿が少し疲れて見えた。


 


「できるわよ。マサさん、お願いね」

 忍さんが優しく微笑むと、マサさんは小さく頷いて、無言で米を研ぎはじめた。


 


 ――この店の焼きおにぎりは、ちょっと特別だ。


 炊きたてのご飯を握り、ほんの少しの味噌を芯に入れる。

 フライパンにごま油を引き、ゆっくりと焦げ目をつけながら両面を焼く。

 最後に、醤油を刷毛でひと塗り。じゅっと音がした瞬間、食欲がくすぐられる。


 


 香ばしい香りが立ちのぼる。

 女性は黙ってその匂いを嗅ぎ、ほっと目を閉じた。


 


「……この匂い、懐かしいな」


 


 忍さんが尋ねる。


「おうちの味、かしら?」


「ええ、母が……よく、夜更けに作ってくれてました。仕事で帰りが遅いときに、温かい焼きおにぎりと味噌汁を。何でもないけど……泣きたくなるくらい嬉しかった」


 


 話しているうちに、焼きおにぎりが一皿、目の前に置かれた。


 こんがりとした焦げ目、立ち上る香り。


 彼女は、箸を使わず、そのまま手で持ってひと口かじった。


 


 カリッ。


 中から、じんわりと味噌の甘みが広がる。


 


「……ああ。変わってない……こんな味……」


 瞳に浮かぶ、ほんの少しの涙。けれど、それは静かで、温かい。


 


 マサさんは黙って、湯気の立つ味噌汁を出す。

 忍さんは、笑って言った。


「どんな一日でも、ちゃんと食べて、明日を迎えなきゃね」


 


 彼女は、小さく「はい」と頷いた。


 


 



---


今夜のレシピ:焼きおにぎり


【材料(2個分)】


温かいご飯:お茶碗2杯分


味噌:小さじ1(好みで)


醤油:小さじ2


ごま油:少々



【作り方】

①ご飯を軽く冷まし、2つに分ける。中心に味噌を入れ、三角に握る。

②フライパンにごま油を引き、弱火でじっくり焼く。

③両面に軽く焼き色がついたら、醤油を刷毛で塗り、もう一度焼く。

④焦げ目がついたら完成!


【ひとことアドバイス】

ご飯は少し冷ましてから握ると、焼くときに崩れにくくなります。

芯に入れる具材は、おかか、梅、チーズなどお好みでアレンジもOK!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ