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第35話『うどん入りお好み焼き、いかがですか?』



午後11時をまわった頃、暖簾がふわりと揺れた。


「こんばんはぁ……やってます?」


ふわっとした声とともに入ってきたのは、会社帰りらしい若い女性。スーツの上着を脱いで、小さく伸びをした。


カウンター奥で鍋の火を見ていたマサさんが、静かに頷く。


「いらっしゃい。あいてますよ」


「ふふ、よかった。今夜はなんだか“粉もん”の気分で……マサさん、お好み焼きって、作れます?」


「お好み焼き?……できるよ。焼きそば入りでいいかい?」


そう聞かれて、女性は少し困った顔になった。


「あっ、でも……私、焼きそば……苦手で。うどんとかでも……いけますか?」


奥で帳簿をつけていたおかみさん――忍さんが、くすっと笑った。


「変わってるわねえ、うどん入りのお好み焼きなんて。でも、マサさんなら何とかしちゃうかもね?」


マサさんは頷くと、冷蔵庫からキャベツとうどん玉を取り出した。


「……じゃあ、“おうどん焼き”とでも呼ぼうかね。作ってみましょ」



---「おかみさん!でも、広島焼きでは、うどん入りもあるらしいですよ。」


ジュワァァァ……


鉄板の上に広がるソースの香りと、うどんの香ばしい香りが混ざり合う。


キャベツたっぷりのふわふわ生地に、炒めたうどんが包み込まれて、たっぷりのソースと青のりがトッピングされる。


「お待ちどうさま。“うどん入りお好み焼き”」


カウンター越しに差し出される皿。その上で湯気を立てるお好み焼きを前に、女性の瞳がほころぶ。


「……わぁ。なんか、懐かしい香り……いただきます」


はふっと一口食べると、うどんのもっちりした食感と、ふんわり焼かれた生地が絡み合い、口の中で広がった。


「ん~……幸せ、かも」


マサさんはいつものように無口なまま、次の仕込みに戻った。


忍さんが、ぽつりとつぶやく。


「昔はね、“一銭洋食”って言って、こんなのが屋台で売られてたのよ。戦後はキャベツ入れて、昭和の頃に麺も加えられて……今の“お好み焼き”になったのよ」


女性は箸を止めて、小さく笑った。


「へえ……歴史あるんですね。知らなかった。」


「時代が変わって、今のお好み焼になったのね。」


静かに笑い合う、深夜の時間。


夜更けの“しのぶ”には、今日も誰かの“わがまま”が、美味しく焼き上がる。



---


レシピ:うどん入りお好み焼き(変則焼きそば抜きver.)


材料(1人分)


小麦粉(薄力粉)……50g


だし汁 or 水……50ml


卵……1個


キャベツ……1/4個(ざく切り)


茹でうどん……1玉


豚バラ or お好みの具材……適量


ソース、マヨネーズ、青のり、かつお節……適量



作り方


1. ボウルに小麦粉・だし汁・卵を入れてよく混ぜ、生地を作る。



2. キャベツと具材を加えて軽く混ぜる。



3. フライパンに油をひいて、中火で両面こんがり焼く。



4. うどんを別に炒めて、生地に挟み込むようにのせ、再度焼く。



5. 焼けたらソース・マヨ・青のりで仕上げて完成。





---


あとがき・店主メモ


「お好み焼き」は自由度が高い料理です。麺を焼きそばからうどんにするだけで、新しい味に出会えるのが面白いところ。


今夜の“うどん入り”も、少し変わった、でも“その人だけ”の味でした。


食べたいと思った時、それがその人の“正解”なのかもしれませんね。





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