第32話:ついに、スイーツ?お豆腐のドーナツ
「おからドーナツって、ないですよね?ここに」
カウンターに座った女性客が、首をかしげながら聞いた。
深夜1時をまわった「深夜食堂しのぶ」。
入り口には『営業中』の小さな木札がかかっていて、今日も静かに営業している。
「おからはねえ……うちにはないのよ」
奥から忍さんが、少し申し訳なさそうに答える。
ちょっと白髪交じりの柔らかい髪を後ろに束ねた女性。
優しい眼差しの“おかみさん”だ。
「でも――豆腐ならあるわよ」
「豆腐でドーナツ……?」
女性は目を丸くした。
その隣で、無口な板前・マサさんが小さく頷く。
奥の冷蔵庫から、木綿豆腐を静かに取り出した。
しばらくして――店中に甘く香ばしい香りが漂いはじめる。
「できたよ」
マサさんが差し出したのは、ほんのり黄金色をした素朴なドーナツ。
サクッ、とかじると、ほんのりと豆腐の優しい香り。
でも、もっちりしてて、ふんわり甘い。
「おいしい……!」
女性は思わず顔をほころばせた。
「揚げたてって、どうしてこんなに幸せなんでしょうね」
「豆腐と米粉だけなの。卵もバターも使ってないけど、軽いでしょ?」
忍さんが微笑む。
「甘さも控えめだから、夜でも罪悪感が少ないでしょ?」と、ウインクする忍さん。
その一言に、女性は思わず吹き出した。
「罪悪感込みで深夜に来てますから……また、お願いしますね」
ふふふ、と店の空気が柔らかくなる。
――今日もまた、誰かの心が、少しだけほどけていった。
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今日のレシピ:豆腐と米粉のヘルシードーナツ
材料(6個分)
木綿豆腐:150g(水切り不要でもOK)
米粉:100g
砂糖:大さじ2〜3(好みで)
ベーキングパウダー:小さじ1
サラダ油:適量(揚げ用)
作り方
1. ボウルに豆腐を崩しながら入れ、米粉、砂糖、ベーキングパウダーを加えて混ぜる。
2. 手で丸められるくらいの硬さに調整(柔らかければ米粉を少し足す)。
3. 小さく丸め、中央に指で穴を開けてドーナツ型に。
4. 160〜170℃の油で、きつね色になるまでゆっくり揚げる。
5. お好みで、仕上げにきな粉や粉砂糖をまぶしても◎。
アドバイス
米粉の代わりにホットケーキミックスでも可。
絹ごし豆腐でも可。ただし柔らかすぎる時は粉を足して調整。
甘さ控えめが好きな方は砂糖少なめで!
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