第29話:『外は熱々カリカリ、中はひんやり』ポテトサラダのフライ
「……冷たいポテトサラダ、揚げてくれませんか?」
カウンターの隅に座ったのは、会社帰りの女性。ネイビーのスーツに、わずかに崩れた口紅。
「揚げポテサラ、ね。マサさん、いける?」
おかみの忍さんが笑いかけると、奥の厨房から「……おう」と返事が返ってきた。
いつもながら無口なマサさんが、静かにポテトサラダを冷蔵庫から取り出す。真ん丸に手で握り、衣をつけて、油の中へ。
ジュワァァ……
いい音が、店内に響く。揚がっていく香りが、女性の疲れた表情をやんわりとほぐしていく。
「……昔、母がね、よく作ってくれたんです。お弁当に。だけどいつも冷めてて、カリカリなんかじゃなかったなぁ」
「冷たい中身が残るように揚げるのがコツなんですよ」
忍さんが笑いながら言うと、女性ははにかんだ。
マサさんが、小さな皿に3つの丸いフライをのせて差し出す。
ひとくち。
「……ん。外、カリカリで中が、冷た……うわ、なんだこれ、美味し……!」
はふ、はふ、と夢中で食べる彼女の目が、じんわりと潤む。
「なんか、涙出そう……意味もなくて」
「意味なんて、あとからでいいのよ。お腹すいてて、美味しいなら、それでいいの」
ふっと笑った忍さんに、女性は頭を下げた。
「明日、会社辞めます。でも、ちょっと頑張れた気がしました」
彼女の足音が消えていくと、マサさんがぽつりと呟いた。
「……泣きながら食うやつは、うまいって証拠だ」
忍さんはクスッと笑った。
「うん、あの子、きっとまた来るわ」
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今日のレシピ:ポテトサラダのフライ
材料(2人分)
ポテトサラダ(冷やしたもの)……適量
小麦粉、溶き卵、パン粉……各適量
揚げ油……適量
作り方
1. 冷たいポテトサラダを直径4cm程度に丸める。
2. 小麦粉 → 卵 → パン粉の順につける。
3. 170〜180℃の油でさっと揚げる(中は冷たく、外はカリッと)。
4. キッチンペーパーで油を切り、熱々のうちにどうぞ!
アドバイス
・揚げ時間は短く!中が温まらないようにするのが「冷温コントラスト」のコツ。
・ジャガイモが崩れやすいので、しっかり冷やすと形を保ちやすいです。
・お好みでタルタルソースやケチャップを添えても◎




