第28話:マグロのメンチカツ『賄いにも、心をこめて』
「……少し、余ってしまいましたね」
マサが煮付けの鍋を見つめて、ぽつりと呟く。
カウンターの奥で帳簿をめくっていた忍が顔を上げた。
「美味しいのにね、マグロの煮付け」
「はい。煮付け賄いでいただいてもいいですか?」
マサが遠慮がちに言う。
少しアレンジします。フライでも大丈夫ですか?
忍は、ふわりと笑って頷いた。
「マサさんの賄いなら、何でも美味しいから大丈夫よ」
その言葉に背を押され、マサは再び厨房に立つ。
煮付けは脂の乗ったマグロの中落ち。
冷めても味が染みていて、それでも少しだけ食べ切れずに残ってしまった。
マサはそっと煮付けを取り出し、丁寧に汁気を拭き取りながら、身を食感が残る程度に解していく。
次に片栗粉をまぶし、ほどよい粘りで成形しやすくする。
両手で丸めて、小判型に整え、静かに衣を纏わせた。
「……揚げます」
小さくつぶやき、熱した油にそっと投入する。
じゅわっ、と心地よい音が立ちこめ、香ばしい香りが広がっていく。
やがてきつね色に揚がったそれは――マグロの煮付けのメンチカツ。
「おかみさん、よろしければ一つ……」
マサが皿に盛りつけ、カウンターへそっと置いた。
添えられたのは、千切りキャベツと、ほんの少しの辛子ソース。
「いただくわね」
忍がひと口かじると、外はカリッと、中はふわりと、煮付けの旨味がじゅわっと口に広がった。
「……うん、美味しい……ほんとに、何でも美味しくするのね、マサさん」
マサはちょっとだけ頬を赤らめて、照れたように笑った。
このメンチカツ、メニューに加えても良いんじゃない?
ねぇ!マサさん。
この店には、そんな優しい夜のひとときが、たしかに流れていた。
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今夜のレシピ:マグロのメンチカツ
材料(2人分)
マグロの煮付け(残り物OK)……約150g
片栗粉……大さじ1
パン粉・卵・小麦粉(衣用)……適量
揚げ油……適量
千切りキャベツ、ソースなどお好みで
作り方
1. 煮付けのマグロは汁気をとり、粗くほぐす。
2. 片栗粉と混ぜ、ひとまとめにし、小判型に成形。
3. 小麦粉→卵→パン粉の順に衣をつける。
4. 170℃の油できつね色になるまで揚げる。
5. お好みでソースを添えてどうぞ。
アドバイス
・しっかり味が染みた煮付けほど旨味が凝縮!
・タルタルソースや梅ソースでアレンジも◎。
もちろん、なにもつけずに食べても、マグロの旨味があふれだします。




