表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/154

第26話「初めてのラムの味」



 


 ぽつり、ぽつりと降り出した雨が、石畳の路地を濡らしていた。


 時刻は午後十一時を回ったころ。


 駅裏の雑居ビルの一角――赤ちょうちんがぶらさがる、静かな店がある。


 『深夜食堂しのぶ』。


 


 暖簾をくぐると、ふわりと香ばしい香りが鼻をくすぐった。


 


「……いらっしゃい」


 


 カウンターの奥で、無口な板前――マサさんが、包丁を置いて一言。


 その隣、笑顔の優しい女性――しのぶさんが、手拭き片手に出迎えてくれた。


 


「今夜は寒いですねえ。よければ温かいスープでもお付けしましょうか?」


 


 入ってきたのは、OL風の若い女性。濡れた髪をハンカチでぬぐいながら、ぽつりと呟いた。


 


「……ラムって、食べたことないんですけど、どんな味ですか?」


 


 その一言に、忍さんはにっこり笑った。


 


「癖のない子羊のお肉ですよ。優しい香りで、とっても美味しいんです」


 


 マサさんが手を止め、しばし考えると、冷蔵庫から新鮮なラム肉を取り出した。


 


「香草焼き、いけるな」


 


 調理が始まる。ガーリック、ローズマリー、タイム、黒胡椒。下味をつけたラム肉が、熱された鉄板でじゅうっと音を立てる。


 その香りは、懐かしいようで異国のようでもあり……空腹を刺激してくる。


 


「うわ、いい匂い……」


 


 やがて、焼き色のついたラムが、付け合わせの蒸し野菜と共に皿に盛られる。


 そして――


 


「こちら、ラムの香草焼き。特製のミントソースを添えてます」


 


 ひと口――ナイフを入れ、口へと運ぶ。


 


「……やわらかいっ!」


 


 彼女は驚いたように目を見開き、噛みしめるたびにほのかに広がる香草の風味に、何度も頷いた。


 


「ラムってこんなに美味しいんですね……。勝手に“クセが強そう”って思ってました」


 


「食わず嫌い、損しますよ」


 


 マサさんがぼそりと笑う。


 


 彼女は食後、もう一品リクエストした。


 


「もしできたら……ラムでご飯もの、お願いできますか?」


 


 マサさんと忍さんが顔を見合わせ、無言で頷く。


 そこから出来上がったのが――


 


 **「ラムと香味野菜の炊き込みご飯」**だった。


 


 ラムの脂と香味野菜(生姜、にんにく、玉ねぎ、人参)から出る旨味が、ほかほかのご飯と一体になって、噛むたびに風味が広がる。


 


「……あぁ……こういう夜、嫌いじゃないです」


 


 窓の外では、雨がやんでいた。


 


 明日もきっと、何かが少し、変わる気がした。


 



---


レシピ紹介:ラムの香草焼き


材料(1人分)


ラム肉(肩ロースなど)…120g


にんにく…1すりおろし


ローズマリー…ひとつまみ(乾燥でもOK)


タイム…少々


塩・黒胡椒…各少々


オリーブオイル…小さじ1


ミントソース(市販 or 自家製)



作り方


1. ラム肉に塩、胡椒、ハーブ類、にんにくを揉み込み10分置く。



2. フライパンにオリーブオイルを熱し、表面に焼き色がつくまで中火で焼く。



3. 火を弱めて蓋をし、2〜3分蒸し焼きに。



4. ミントソースを添えて完成!







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ