第25話:神楽南蛮のガパオライス
「いらっしゃい。まだ暑さの残る夜ですね」
その声に迎えられて、客はふらりと暖簾をくぐった。時刻は午前一時すぎ。街のざわめきも落ち着いた頃。
細長い目をした男性が、カウンター席に静かに腰を下ろす。
「お、マサさん、今日の“南蛮”まだあります?」
板前のマサは無言のまま頷き、手元の食材箱から神楽南蛮を取り出した。ごつごつとした濃緑色の唐辛子は、小ぶりながら存在感がある。
カウンター奥では、おかみさんの忍が微笑む。
「辛党さん、今日も元気そうで何よりね。マサさん、ガパオいける?」
マサは再び頷くと、フライパンに火を点けた。
ガパオライス。
バジルの香りが立ちのぼる、タイ風のひき肉炒めご飯だ。
今日はそれに、神楽南蛮を刻んで加える。
通常のピーマンより小さいその実は、爽やかな辛みが特徴だ。新潟の山間で作られた、知る人ぞ知る唐辛子。
鶏ひき肉を炒め、刻んだ玉ねぎとパプリカ、そして主役の神楽南蛮。
ジュウウ、と音を立てながら火の中で香りを放つ。
味付けはナンプラーとオイスターソース、少しの砂糖でまろやかさを加えて。
仕上げに、バジルの葉をたっぷりと。
目玉焼きは、黄身がとろけるギリギリの半熟に。
白い皿にガパオを盛り、ごはんを寄り添わせる。
その上に、ふんわりと目玉焼きを載せて――はい、完成。
「お待ちどうさま」
マサが静かに差し出すと、辛党の常連は嬉しそうに両手を合わせた。
「いただきます……」
一口、また一口。
炒めた肉の旨みに神楽南蛮の辛さがじんわり染み渡り、鼻に抜けるバジルの香りが夜を鮮やかにする。
黄身を割ると、辛さに包まれた舌に、優しいコクが広がった。
「ふぅ……やっぱ、ここでしか味わえないなぁ、この辛さとやさしさの混ざり具合。癖になるよ」
忍はカウンターの内側からにこやかに笑った。
「マサの味付けは、心のバランスも整えるのよ。たぶんね」
マサは少しだけ、唇の端を上げた。
---
今日のレシピ:神楽南蛮のガパオライス
材料(1人分)
鶏ひき肉:100g
玉ねぎ:1/4個(みじん切り)
パプリカ(赤/黄どちらでも):1/4個
神楽南蛮:1〜2本(刻む)※無ければピーマン+青唐辛子少々でも代用可
ニンニク:1片(みじん切り)
バジルの葉:適量
ナンプラー:小さじ1
オイスターソース:小さじ1
砂糖:少々
サラダ油:小さじ1
卵:1個(目玉焼きに)
ごはん:1膳分
作り方
1. フライパンに油を熱し、ニンニク、玉ねぎ、神楽南蛮、パプリカを炒める。
2. 鶏ひき肉を加えて火が通るまで炒める。
3. ナンプラー、オイスターソース、砂糖を加えて調味。
4. 最後にバジルを加えてさっと炒めたら、ご飯に添える。
5. 半熟目玉焼きを上に乗せて完成!
ワンポイントアドバイス
神楽南蛮が手に入らない場合は、ピーマンに青唐辛子少しを足しても雰囲気は出ます。
半熟卵で辛さをマイルドに調整できるので、お子さま向けには甘め仕上げもおすすめです。




