第24話:お好みオムライス、ふたつの顔
夜も更けた、都会の片隅に灯る、小さな看板。
「深夜食堂しのぶ」
そこは、ちょっと変わった店――メニューはあるけど、常連たちはいつも"ないもの"を頼む。
その夜、閉店間際に現れたのは、疲れた顔をした女性だった。
オフィス帰りだろうか、タイトスカートにくたびれたジャケット姿。どこか、肩に力が入っている。
「……オムライスって、ありますか?」
その声に、カウンター奥のマサさんが軽く頷いた。
おかみさん、忍さんは、湯呑みを片手に女性を見つめる。
「ご飯少なめで、できれば玉ねぎ抜きで……」
「香味野菜が苦手なんですか?」
マサさんが口を開いた。珍しい。無口な彼が話すと、少し場の空気がやわらぐ。
「はい。あと……カレーとかも、好きです」
その言葉に、忍さんとマサさんが一瞬だけ目を合わせる。
「じゃあ、ちょっと変わり種で作ってみましょうか。…二種類のオムライス」
そうして、厨房から香ばしい音が立ち上る。
鉄鍋で炒められるご飯の音、カレー粉のスパイシーな香り。ケチャップの酸味が、鼻先をくすぐる。
やがて目の前に出されたのは――
半熟卵がふんわりとかけられた、まるでお布団のような一皿。
片側には、昔ながらのケチャップライスに、トマトのソース。
もう一方には、ドライカレーベースのご飯に、まろやかなカレーソース。
「わぁ……すごい」
スプーンでひと口。
とろける卵とご飯の温もりが、冷えていた心にじんわりと染み込む。
「……優しい味。思い出すな、母のオムライス……」
女性の肩が、ふっとゆるんだ。
カウンター越しに、忍さんが微笑む。
「お客様が元気になれるなら、マサさん、どんなワガママでも聞きますよ」
店の奥では、マサさんがさりげなく厨房を片付けている。
その背中に、ほんのり優しさが灯っていた。
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今日のレシピ:ふたつのオムライス
ケチャップオムライス(玉ねぎ抜き)
ご飯(温かいもの)…1杯分
ハムやウインナー…適量
ケチャップ…大さじ2〜3
塩・胡椒…少々
卵…2個(ミルクを少々加えて、ふんわり仕上げ)
ドライカレーオムライス
ご飯…1杯分
ひき肉…30g
カレー粉…小さじ1
醤油&ウスターソース…各小さじ1
卵…2個(同様に半熟で)
仕上げ
トマトソース(ケチャップベースでOK)
カレーソース(レトルトでも可)
ワンポイントアドバイス:
卵はフライパンに流し入れたら、周囲を少し固めて、中心は半熟に。
ご飯の味つけはしっかりめにして、卵とバランスを取るのがコツ!




