第22話:鶏胸肉のパリパリ山葵焼き
夜の帳が静かに落ちた街の片隅、ぽつんと灯る提灯がひとつ。
そこは「深夜食堂しのぶ」。
メニューはあるが、常連たちはなぜか、いつも“メニューにない料理”を頼む。
カウンターの奥では、黙々と包丁を走らせる板前・マサさん。
柔らかな微笑みを浮かべるおかみさん・忍さんが、静かに来客を迎える。
その夜、扉を開けて入ってきたのは――
やや酒気を帯びたスーツ姿の女性客だった。
「……唐揚げ、ってできます?」
忍さんが優しく微笑む。
「ごめんなさいね。今日は揚げ物の油、落としちゃったの」
「そっか……」
がっかりしつつも、カウンターの席に腰を下ろす女性。
そんな中、マサさんが静かに差し出した小さなメニュー札に目が留まった。
『鶏胸肉のパリパリ山葵焼き』
「これ、気になりますね。唐揚げじゃないけど……美味しそう」
「おすすめよ」
忍さんが、にこりと笑う。
マサさんが鶏胸肉を丁寧に開き、均一な厚みに整える。
皮目を下にして、しっかりと熱した鉄のフライパンに乗せると、心地よい音が弾けた。
ジュウゥゥッ……
香ばしい匂いが立ちのぼる。
皮がこんがり色づいた頃を見計らい、ひっくり返す。
そして――
残った脂にスライスしたニンニクを投入し、じっくりと香りを引き出す。
黄金色に色づいたニンニクを取り出した後、そこへ少量の醤油をひと回し。
焦がさぬよう煮詰めたタレに、ピリリと効いた山葵を溶かし込む。
皿の上で、パリッと焼かれた胸肉にタレをふわりと回しかけ、香ばしさと山葵の刺激がふわっと鼻を抜けた。
「……あ、これ……美味しい……!」
彼女の頬がほころぶ。
パリパリの皮、しっとりとした胸肉の中身、香ばしい醤油と山葵の刺激、ニンニクの余韻――
唐揚げじゃないけど、これはこれで……“今日の自分にちょうどいい”。
カウンター越しに、忍さんが言う。
「疲れたときはね、重たくない“満足感”もいいのよ」
「……はい。なんか、癒されました」
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レシピ:鶏胸肉のパリパリ山葵焼き
材料(1人前):
鶏胸肉:1枚(同じ厚さに開く)
塩・こしょう:適量
にんにく:1片(薄切り)
醤油:小さじ1
山葵:お好みで
作り方:
1. 鶏胸肉を均一な厚さに開き、塩こしょうを振っておく。
2. フライパンを中火で熱し、皮目を下にして乗せる。
3. しっかり焼き色がついたら裏返し、火が通るまで焼く。
4. 肉を取り出した後、残った脂でニンニクをきつね色に炒め、取り出す。
5. フライパンに醤油を入れ、軽く煮詰め、火を止めてから山葵を加える。
6. 鶏胸肉にタレをかけて完成。
ひとことアドバイス:
山葵は火を止めた後に入れると、香りが飛ばずピリッと風味が残ります。
唐揚げよりも軽く、でも“満足感”はしっかり。お酒にもご飯にも合います。




