第21話「ネギ坊主の天ぷら」
「マサさん、季節の野菜の天ぷらって、ありますか?」
カウンターに座ったのは、仕事帰りのスーツ姿の女性。髪を後ろに束ね、疲れた表情をしていたが、どこか懐かしい香りに顔をほころばせていた。
「……ネギ坊主、入りました」
無口な板前・マサは、静かにそう答え、奥の厨房から小さな木箱を取り出した。
そこには、薄緑の小さな蕾――“ネギ坊主”が並んでいた。
「ネギ坊主って……食べるの?」
店主の忍が目を丸くする。まかないでは見たことがない。
「ええ。春の短い時期だけ。苦みがあって、天ぷらにすると旨いんですよ」
マサが言うと、女性客がぽつりと呟いた。
「……祖母の家で、一度だけ食べたことがあるかも」
そう言って、少しだけ目を細めた。
――ジュッ。
油に落ちた天ぷらの衣が、控えめに音を立てる。
香ばしい香りと、ほんのりとした春の青さが、店内を包む。
「はい、どうぞ。ネギ坊主と、季節の野菜の盛り合わせ」
運ばれてきた天ぷらは、衣が薄く、サクサクとした音が聞こえてきそうだ。
一口かじると、ほのかな苦味と春の香り、そして衣の軽やかさが広がる。
「……うん、苦いけど、美味しい。なんだろう、子どもの頃にはわからなかった味」
女性の表情が、ふっと柔らかくなる。
「それ、大人の味ね」忍が微笑む。
マサは、何も言わず、次の天ぷらの準備に取り掛かっていた。
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本日のレシピ「ネギ坊主の天ぷら」
材料(2人分)
ネギ坊主:6〜8本
天ぷら粉:適量(または薄力粉と水で代用)
冷水:適量
揚げ油:適量
塩:少々
作り方
1. ネギ坊主はさっと洗い、水気をしっかり拭き取る。
2. 天ぷら粉を冷水で溶いて衣をつくる(軽く混ぜる程度)。
3. ネギ坊主に衣をくぐらせ、180℃の油でカラッと揚げる。
4. 衣がうっすら色づき、パリッとしたら取り出して油を切る。
5. 塩を添えてどうぞ。
アドバイス
ネギ坊主は、苦味が気になる場合は、下茹でしてから揚げるとマイルドになります。
衣はあまり混ぜすぎないように。グルテンが出ると重くなります。




