第2話:たまごかけご飯と、忘れた優しさ
夜11時過ぎ。
終電の気配も遠のいた路地裏に、ひっそりと灯る古びた看板。
> 『深夜食堂 しのぶ』
入り口の引き戸を開けると、ふわっと湯気と出汁の香りが鼻をくすぐる。
カウンターには無口なマスター。
今日もひとり、ぽつりと客がやってきた。
「……玉子かけご飯、いけますか?」
「あるよ」
青年はスーツ姿で、どこか疲れ切った顔をしていた。
職場の人間関係、うまくいかない恋、夢の行方。
語らずとも、その肩から漂う“重さ”は、マスターにはよく見える。
土鍋で炊いたご飯。
少し高めの平飼い卵。
醤油は、ほんのり甘めの九州風。
マスターが無言で差し出すそれに、青年はそっと手を伸ばした。
「……あぁ、やっぱ、うまいな」
口に含むと、自然と目頭が熱くなる。
なんてことのない料理。
だけど、どこか懐かしくて、あたたかくて。
「実家、しばらく帰ってなくて……母親がよく、朝に作ってくれたんですよ。これ」
「……そうか」
「なんか、忘れてました。こういう優しさ」
マスターは、ただ小さくうなずくだけ。
食べ終わった青年は、少しだけ軽くなった表情で帰っていった。
深夜の食堂。
人知れず、誰かの“何か”を満たしている。
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本日のレシピ:ちょっと贅沢な、たまごかけご飯
材料(1人前)
・炊きたてご飯:1膳
・卵(できれば平飼い or 新鮮なもの):1個
・醤油(お好みで):少々
・ごま油(少し加えるとコクが増す):適量
・刻みネギや海苔、白ごま(お好みで)
作り方
1. ご飯は熱々を用意する。
2. 卵をそのまま落とし、醤油をひとたらし。
3. ごま油をほんの少し加えると風味がUP。
4. よく混ぜて、お好みでネギや海苔を添える。
アドバイス
・卵かけご飯専用の醤油も市販されており、風味に差が出る。
・ごま油+白ごまはおすすめの“香りコンボ”。