表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/177

第171話 故郷で出会った、優しいお菓子の店

墓参りの帰り道だった。

線香の匂いがまだ指先に残っている。

静かな気持ちのまま歩いているこの街は、

マサの故郷——茨城県石岡市だ。

子どもの頃から知っているはずの街なのに、

歩いていると、まだ知らない店がふと現れることがある。

その日も、そんな一軒の店が目に入った。

少し落ち着いた店構えの店。

派手さはないが、どこか品のある佇まいだ。

店の入口の頭上には、大きな看板が掲げられている。

そこには、達筆な崩し字のような筆文字で

「久月」

と書かれていた。

勢いのある筆致で書かれた二文字は、遠目からでも存在感がある。

その重厚な看板の印象もあって、

マサは最初、この店を和菓子屋だと思い込んでしまった。

だが店の中に入ると、すぐにその勘違いに気付く。

ショーケースには和菓子だけではなく、

ケーキなどの洋菓子も並んでいた。

どうやらここは和菓子専門の店ではないらしい。

店長に聞くと、にこやかにこう教えてくれた。

「うちはですね、お菓子の久月なんですよ」

つまり和菓子も洋菓子も手掛けている、

**“お菓子の店”**というわけだ。

ここは

お菓子の久月 石岡店。

マサの故郷に、こんな店があったのかと少し嬉しくなる。

店長は明るく、人当たりのいい人だった。

店内では若いスタッフの女の子が

テキパキと動いている。

商品の補充、レジ、袋詰め。

忙しそうなのに、動きが軽やかで、

どこか楽しそうだ。

そんな空気を見ていると、

なんだかこちらまで気持ちが和んでくる。

そんな中で目に入ったのが——

「フルーツ大福 いちごちゃん」

和紙を思わせる包み紙に、苺のイラスト。

キャンディーのような包み方で、

片側だけビニタイで留められている。

中身は、

苺 → こし餡 → 大福餅

という三重構造。

苺をこし餡で包み、

さらにそれをピンク色の大福餅で包んでいる。

このピンク色を見て、

食紅ではないかと気にする客もいるらしい。

だが実際には、

自然由来の色素を使っているとのこと。

さらに苺の水気が餡に移らないような

細かな工夫もされているらしい。

職人の食に対するこだわり。

そして、お客様への気遣い。

そんな思いが、この小さな大福の中に詰まっている。

マサは少し多めに買うことにした。

忍の分。

八恵子の分。

それと、店の常連客への土産。

紙袋を手に店を出る。

だが数歩歩いたところで、

ほんのり甘い香りに負けてしまった。

「……これは反則だろ」

結局、包みを一つ開けてしまう。

柔らかい餅。

上品な甘さのこし餡。

そして——

ぷちっ。

苺が弾けた。

甘さの中に、爽やかな酸味。

思わず足を止めてしまう。

「これは……喜ばれるな」

そう思いながら歩き出そうとした、その時だった。

「すみませーん!」

振り返ると、店長が慌てて駆け寄ってきた。

少し息を弾ませながら言う。

「4月からですね、

マロンロールというロールケーキを販売するんですよ。

もしよろしければ、ぜひ!」

ロール生地に生クリーム。

そこに渋皮マロンクリーム。

さらに刻み栗を入れて巻いたロールケーキらしい。

その説明を聞いた瞬間——

マサの目が輝いた。

「……それは、気になるな」

店長は嬉しそうに笑う。

マサは軽く手を振った。

「また、お邪魔します」

故郷の街に、

また一つ楽しみな店が増えた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ