第151話『焼き鳥談義』
第151話『焼き鳥談義』
暖簾の外は秋の気配。
焼き網の上で、じゅうじゅうと脂が弾ける音が店内を包む。
その音だけで、常連たちの胃袋が鳴り始めた。
「マサさん、やっぱり焼き鳥は塩ですか? それともタレ?」
若いサラリーマン客の問いかけに、マサは煙の向こうでニヤリと笑った。
「どっちも正解だな。肉の部位で変わるんだよ。ももはタレでもうまいが、砂肝やハツは塩のほうが味が立つ。」
忍がカウンターの向こうで冷酒を注ぎながら、微笑む。
「マサさんの焼き鳥って、いつも香ばしいわよね。炭の扱いが違うのかしら?」
「炭は備長炭だ。煙が細くて、遠赤外線でじっくり焼ける。肉がふっくらするんだよ。」
マサは串を返しながら、しれっと続ける。
「あと、ウチは変わり種も出してる。」
「変わり種?」と客が首を傾げる。
マサは鉄板の上に、ちょこんと並んだ小さな串を指さした。
「トマトのベーコン巻き、アスパラの肉巻き、あと、チーズつくねだな。
これがまた酒に合うんだ。」
常連の一人が箸を動かしながら呟く。
「そういや最近、焼き鳥を串から外して食べる人が多いらしいな。」
マサが一瞬、目を細める。
「おぉ、その話題か。まあ、居酒屋とかじゃ“シェア”しやすいからな。
けど、オレは断然“串のまま派”だな。」
「理由は?」と忍が興味深そうに聞く。
マサは煙の中でにやり。
「串ってのは、“焼きの意図”がある。
部位の順番、焼き加減、タレの染み込み具合──全部計算して刺してる。
それを外しちまうと、味のバランスが崩れるんだよ。」
客たちはうんうんと頷きながら、一本、また一本と串を手に取る。
「でもまあ、家で食うなら外してもいい。
皿に盛って、ご飯の上にのせて“焼き鳥丼”にするのも悪くねぇ。」
忍が笑う。
「それ、結局“マサ流”にしちゃうのね。」
マサは一息つき、炭火の上に最後の串を置いた。
「焼き鳥ってのはな、シンプルだからこそ奥が深ぇんだ。
塩もタレも、焼きも外し方も──結局は“その人の流儀”でいいんだよ。」
煙がふわりと漂い、店内に香ばしい香りが満ちる。
深夜食堂しのぶ、今夜も小さな焼き網の前で、静かに夜が更けていった。
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マサ流・焼き鳥レシピ(変わり種含む)
基本の鶏もも串
鶏もも肉 … 200g
長ねぎ … 適量
タレ(醤油100ml・みりん50ml・砂糖大さじ2・酒50ml)
① タレを鍋で煮詰める。
② 鶏ももとねぎを交互に串打ち。
③ 強火で表面を焼き、中火でじっくり火を通す。
④ 焼き上がる直前にタレを2回ほどつけ焼き。
チーズつくね串(マサ流)
鶏ひき肉 … 200g
玉ねぎみじん … 大さじ2
塩こしょう・醤油・片栗粉 … 各少々
ピザ用チーズ … 適量
① 材料を混ぜて団子状に。
② 串に刺して焼き、途中でチーズを乗せて溶かす。
ベーコン巻きミニトマト串
ミニトマト … 6個
ベーコン(ハーフ) … 6枚
① ベーコンでトマトを巻き、楊枝で固定。
② 表面を転がしながら焼き、仕上げに黒こしょうをひと振り。




