第15話「レバー炒め、醤油ひとまわし」
時計の針が日付をまたぎ、路地裏にある小さな食堂「しのぶ」に、またひとり、客が入ってきた。
入り口の暖簾をくぐると、カランと鈴の音。カウンター奥では、無口な板前・マサさんが黙々と包丁を握り、店主の忍さんが穏やかな笑顔で迎える。
「いらっしゃい。……今日は暑かったわね」
「……忍さん、スタミナつくやつ、ある?」
そう言って腰を下ろしたのは、残業帰りらしき若い女性。シャツの襟元を扇ぎながら、ぐったりと座る。
忍さんは優しく頷く。
「うちの定番、ニラレバじゃなくて……今日はね、特別に“マサ流”でどう?」
「“マサ流”?」
「うん、うちの板前がね。ニラを入れずに、胡麻油と醤油だけで仕上げるの」
「……気になる。お願い!」
***
厨房でマサさんが手早くレバーを処理する音が響く。
血抜きしたレバーを水気を拭って、熱した中華鍋に胡麻油をひとたらし。
高温の油がレバーを包み、ジュウッと音を立てる。香ばしい匂いが、店内に広がっていく。
マサさんが中華鍋を煽るたび、レバーの表面がカリッと変化していく。
最後に、うまみ調味料をぱらり。
そして――火を止め、鍋肌に醤油を一回し。
ジューッという音と共に、香ばしさが跳ね上がる。
それは、香りだけで白ご飯が欲しくなるような魔法だった。
***
「おまたせ。熱いから、気をつけてね」
白い皿の上に、照りのあるレバーがこんもりと盛られていた。
ごま油の香りと、少し焦げた醤油の匂いが鼻腔をくすぐる。
女性は箸を取り、一口。
「……うまっ……外は香ばしいのに、中はふわっとしてる……!」
ご飯が止まらない。醤油の焦げとレバーの旨味が絡み合い、じわじわと体に染みていく。
カウンター越しに、マサさんが少しだけ目尻を下げた気がした。
忍さんはそっと笑みを浮かべて、お茶を注ぐ。
「ね、スタミナ、ついたでしょ?」
女性は少し照れながら、頷いた。
「……たしかに。明日も、頑張れそう」
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今夜のレシピ『マサさん流レバー炒め』
【材料(1人分)】
・豚レバー……100g(薄く切って血抜き)
・ごま油……大さじ1
・うま味調味料……少々
・醤油……大さじ1(火を止めてから)
【作り方】
① レバーは水にさらし、血抜きしてしっかり水気を拭く。
② フライパンにごま油を熱し、強火でレバーを炒める。
③ レバーの表面がカリッとしたら、うま味調味料を少し振りかける。
④ 火を止め、鍋肌に醤油を回し入れて香りを立たせる。
⑤ 盛りつけて完成。白飯が進みます!
【ポイント】
・レバーはしっかり血抜きし、強火で一気に炒めるのがコツ。
・ニラやもやしを入れない分、香りと食感が引き立ちます。




