第146話『牛肉が苦手な客』
夜の深まった頃、一人の客がのれんをくぐった。
どこか気まずそうにカウンターに座ると、メニューも見ずに言う。
「マサさん…その…牛肉はちょっと苦手でね。牛丼じゃなくて、豚で丼ってできるかい?」
しのぶが首をかしげる。
「豚丼?帯広名物の?あの甘辛いタレで焼いたやつ?」
マサは軽く笑って、まな板に包丁を置いた。
「そうだ。牛じゃなくても丼は丼だ。豚には豚の旨さがある。」
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マサ流 豚丼 レシピ
材料(2人分)
豚ロース薄切り(または肩ロース):200g
玉ねぎ:1/2個
生姜:1片
ご飯:2膳分
白ごま、刻み海苔:少々
タレ(合わせ調味料)
醤油:大さじ3
みりん:大さじ2
酒:大さじ1
砂糖:大さじ1
すりおろし生姜:小さじ1
作り方
1. タレの材料を混ぜ合わせる。
2. フライパンで豚肉を焼き、火が通ったら玉ねぎを加える。
3. タレを回しかけ、中火で照りが出るまで煮絡める。
4. 熱々のご飯にのせ、仕上げに白ごまと刻み海苔を散らす。
マサの一言アドバイス
「豚丼はな、脂の旨味を引き出すのが鍵だ。厚めの肩ロースを使うとコクが出る。
あっさり食いたきゃ、ロース薄切りでも十分だ。」
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食堂のひとコマ
出来上がった丼を前に、客が箸を入れる。
「うん…豚は柔らかいし、タレが染みて旨いなぁ。牛丼より好みかもしれない。」
しのぶが笑って茶を注ぐ。
「牛が苦手でも、ちゃんと選べる一杯がある。ここはそういう場所よね。」
マサは煙草に火をつけ、ぼそりと呟いた。
「結局、腹が満ちりゃあそれでいいのさ。」
深夜食堂しのぶに、ほんのり甘辛い香りが漂っていた。




