第144話『ノア・レザンを焼く』
その夜の「深夜食堂しのぶ。」
ふと厨房から、香ばしい匂いが立ちのぼった。
カウンターの常連客が鼻をひくつかせる。
「ん?パンの匂いじゃねぇか?」
しのぶが笑みを浮かべる。
「そうなの。マサさんね、たまにパンを焼きたくなるのよ。」
マサは黙々とオーブンをのぞき込む。
「ノア・レザンだ。胡桃とレーズンのパン。
昔、パン職人をしてた頃によく焼いたんだよ。」
焼き上がると、黄金色のクラストから立ちのぼる香り。
割れば胡桃の香ばしさとレーズンの甘酸っぱさがふわりと広がる。
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ノア・レザン(マサ流レシピ)
材料(約2本分)
強力粉:300g
全粒粉:50g
ドライイースト:5g
砂糖:15g
塩:6g
水:220ml(ぬるま湯)
胡桃:80g(軽くロースト)
レーズン:100g(ぬるま湯でもどし、水気を切る)
作り方
1. ボウルに強力粉・全粒粉・砂糖・塩を入れる。
2. ぬるま湯にドライイーストを溶かし、粉に加えて捏ねる。
3. 生地がまとまったら胡桃とレーズンを加え、均一に混ぜ込む。
4. 一次発酵(30℃で60分)。生地が2倍に膨らんだら分割してベンチタイム15分。
5. 丸め直して成形し、二次発酵(30分)。
6. 230℃のオーブンで20〜25分焼く。
マサのアドバイス
「胡桃は軽くローストしてから混ぜろ。香りがぜんぜん違う。
レーズンはしっかり水気を切らないと、生地がべちゃつくからな。」
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食堂のひとコマ
焼きたてを切り分け、カウンターに並べる。
「熱いうちにどうぞ。」
常連客が頬張ると、胡桃のカリッとした食感とレーズンの自然な甘み。
「……くぅっ、ワインが欲しくなるな。」
しのぶが笑って赤ワインを出す。
「今夜は深夜食堂じゃなくて、ちょっとしたビストロね。」
マサは照れ隠しのようにグラスを傾け、ぽつりと呟いた。
「たまにゃあ、パンも悪くねぇだろ。」
食堂には、懐かしいパン職人の香りが静かに漂っていた。




