第143話『鰹の刺身』
深夜食堂しのぶ。、
カウンターに腰掛けた年配の常連客が、ぽつりと呟いた。
「マサさん、今夜は鰹の刺身なんてあるかい?」
マサは黙って冷蔵庫を開ける。
「いい鰹が入ってるぜ。今日は戻り鰹だ。」
しのぶが目を丸くする。
「鰹って、春と秋で味わいが違うのよね?」
常連客は頷きながら、昔を懐かしむように話し出す。
「若い頃、土佐で食べた鰹のたたきが忘れられなくてな。藁焼きの香りが鼻に抜けるんだ。あれを肴に飲む酒は最高だった…。」
マサが包丁を構え、鮮やかな手つきで鰹を切り分ける。
「今夜は刺身でいこう。戻り鰹は脂がのってる。山葵でも、生姜醤油でも合うぜ。」
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鰹の刺身・マサ流レシピ
材料(2〜3人分)
鰹(刺身用):1柵
生姜:1片
にんにく:1片(薄切り)
青じそ:適量
ネギ:少々(小口切り)
醤油:適量
酢:少々(好みで)
作り方
1. 鰹の柵を冷蔵庫から出し、表面の水分を拭き取る。
2. 包丁を寝かせ気味にして、繊維を断ち切るように引き切りする。
3. 薬味(生姜・にんにく・ネギ・青じそ)を用意。
4. 醤油またはポン酢に好みでつけていただく。
マサのひとことアドバイス
「戻り鰹は脂がのってるから、ニンニクが合う。初鰹はサッパリしてるから、生姜でいけ。」
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食堂のひとコマ
刺身がカウンターに置かれると、鮮やかな赤が夜に映える。
客が一切れ口に運び、にんにくをきかせた醤油でぐっと呑み込む。
「……あぁ、これだ。この香り、この旨み。まるであの頃に戻ったみたいだ。」
しのぶが微笑む。
「食べ物って、不思議ね。ひと口で、思い出まで蘇るんだもの。」
マサは短く頷き、黙ってグラスを差し出す。
鰹の香りと共に、深夜の食堂には静かな余韻が広がっていった。




