【第13話】限定に間に合わなかった夜
深夜1時。
静かに灯る赤提灯の下に、ひとりのサラリーマンが肩を落として入ってきた。
「いらっしゃい」と優しく声をかけるのは、おかみの忍さん。
その奥で、黙々と包丁を動かすのが板前のマサさんだ。
スーツ姿の男は、カウンターの隅に腰を下ろすなり、ため息混じりに言った。
「……月見バーガー、食べたかったなぁ……」
コンビニも、ファストフード店も回ったけど、どこも売り切れだったという。
それを聞いて、忍さんがクスリと笑った。
「そんなに食べたかったんだ?」
「はい。なんか、こう……秋の風物詩って感じで、食べると“季節が来た”って気がして……」
すると、それまで黙っていたマサさんが口を開いた。
「――ハンバーガーじゃないけど、“月見”っぽいの、作りましょうか?」
男は目を丸くする。
「え? できるんですか?」
「できる範囲で、だけどな」とマサさん。
忍さんが笑いながらフォローする。
「ここ、“メニューにない注文”が通る店だから」
*
香ばしい匂いが漂いはじめた。
鉄板の上で焼かれているのは、ふっくらと丸く整えた豚の挽肉。
その横で焼き始めた目玉焼きが、ぷっくりと白身を膨らませている。
「お味噌汁つけていい?」と忍さん。
「もちろん」と男が即答した。
そして出されたのは――
・ご飯の上に、照り焼き風味のハンバーグ
・その上に、とろりとした黄身の“月見目玉焼き”
・付け合わせの野菜と、味噌汁とたくあん。
「……あれ? これ、丼じゃなくて……」
「“月見プレート”です」と忍さん。
「これはこれで、最高です……」
男は思わず、箸を止めたまま言った。
一口、口に運ぶ。
甘辛いタレと、ジューシーなハンバーグ、まろやかな卵黄が絡み合い、どこか懐かしい味がした。
「……うまい……これ、売っててもいいくらいです」
「限定でもなんでもないけどね」と忍さんが笑う。
男は、今度は少し笑って、目を細めた。
「ありがとうございます。なんか、満たされました」
「また来てください。限定じゃないけど、ここは毎晩やってますから」
その夜、男の“食べたかった気持ち”は、ちゃんと叶ったのだった。
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今夜のレシピ:月見バーグプレート
【材料】(1人分)
・豚ひき肉:150g
・玉ねぎみじん切り:1/4個分
・卵:1個(目玉焼き用)
・塩胡椒:少々
・醤油・みりん・砂糖:各大さじ1(タレ用)
・ご飯・付け合わせ野菜・味噌汁:お好みで
【作り方】
1. ひき肉と玉ねぎを混ぜ、塩胡椒で下味をつけて成形。
2. フライパンで焼き、両面に焼き色がついたらフタをして中まで火を通す。
3. ハンバーグを取り出し、同じフライパンでタレの材料を煮詰め、ハンバーグに絡める。
4. 別のフライパンで目玉焼きを焼く(黄身を崩さず、とろっと仕上げる)
5. ご飯の上にハンバーグ、目玉焼きを乗せ、タレをかけて完成。
【ひとことアドバイス】
甘めのタレにする場合、砂糖多めでも美味しい。
黄身が“満月”に見えるよう、焼き加減を丁寧に。




