第129話:『氷室(ひむろ)から届く昔ながらの氷』
――ある夜のこと。
「しのぶ。」のカウンターに、氷の入った木箱が届く。
> 送り主は、信州・諏訪の古い氷室。
厳冬に山の湧き水を蓄え、自然の寒さで凍らせ、
夏まで大切に保存してきた“天然氷”。
木箱の蓋を開けると、きらりと青白く光る氷。
切り出しの跡が美しく、なにより溶ける音すら静かだ。
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客:「これ……本物か?」
カウンターに座っていた、年配の職人風の男。
氷を見て、目を細める。
> 「昔、親父が贅沢に買ってきたことがあった。
“これは氷じゃねえ。宝石だ”ってな」
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しのぶの氷使い – 「氷室氷の涼献立」
一、天然氷のかち割りと、自家製の梅蜜
削らず、かち割り氷で提供
梅と蜂蜜で作った梅蜜シロップをたらりと
シンプルなのに、深い余韻
> 「この氷……噛んでも“頭が痛くならない”ですね」
「それが、天然氷の証拠さ」マサがぽつり。
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二、氷室氷の冷酒ロック(信州の地酒)
氷が溶けても味が濁らない
香りが立ち、のどごしがまろやかに
> 客「……この酒、静かに沁みるなぁ」
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三、冷やし抹茶の氷水仕立て
点てた抹茶を氷水で割る
軽い苦味と香りが、氷の中で広がる
> しのぶ「氷で割ると、抹茶の“本当の香り”が立ち上がるんです」
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四、〆の「昔ながらの氷あずき」
材料:
天然氷(薄く手で削る)
自家製あずき餡(少し塩をきかせる)
練乳 or 黒蜜(選べる)
ポイント:
あずきは北海道産。じっくり炊きあげ、
一晩寝かせることで甘さがまろやかに。
氷の薄さと餡の温度差が絶妙。
> 客「甘いのに、涼しい……懐かしいな。
子どもの頃、祭りの屋台で食べた味だ」
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氷室の話と、しのぶの記憶
> しのぶ「……氷室の氷って、“時間”なんですよね。
真冬に凍って、半年間ずっと眠ってて……
夏に、こうして私たちに届けられる」
> マサ「氷が“溶ける音”を、感じられる人間でいたいよな」
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終幕:深夜の静けさと、氷の余韻
氷は、ひとつ、またひとつと静かに溶けていく。
冷たさではなく、静けさが心を冷やす。
まるで、過去の記憶をそっと冷やしてくれるように。
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料理メモ:天然氷の魅力
名前特徴
かち割り氷の梅蜜梅の酸味×天然氷の純度
冷酒ロック溶けても味が濁らず、香りが立つ
抹茶氷水苦味と香りが引き立つ夏の一杯
昔ながらの氷あずき自家製あずきと氷の温度差が絶妙




