第12話:丸めない、たこ焼き
時刻は夜も深く、静まり返った街の一角。
看板の灯だけがぽつんと灯る店、「深夜食堂しのぶ」には、今日も誰かが扉をそっと開ける。
「いらっしゃい」
優しい笑顔の忍さんが迎え、奥でマサさんがちらりと視線を上げる。
カウンター席に腰を下ろしたのは、若い女性客。リネンのシャツにデニム、仕事帰りのようだ。
「……あのさ、たこ焼き、食べたくなっちゃって」
「たこ焼き?」忍さんが首をかしげる。「メニューには……なかったよね?」
「……でも、たこ焼き屋、もう閉まっててさ。なんか、あの、外カリ中トロで、ソースの香ばしいやつ……無性に食べたくて」
忍さんは少し困ったように笑い、奥のマサさんを見やる。
無口なマサさんは、ちらと目を上げると、静かに冷蔵庫を開けた。
「タコ、あるな」
「あるんかい」と忍さんが小さく笑った。
そして――
運ばれてきたのは、意外な姿の“たこ焼き”。
「……え、これ?」
「丸めてないけど、味は本気。たこ焼き風の、ふわトロ鉄板焼きってとこかしら」
鉄板で焼かれた小さな円形――見た目はまるでお好み焼きのよう。でも香ばしいソースの匂いと、かつお節のゆらゆらが、まさしく“たこ焼き”。
「……いただきます」
一口食べたその女性の目が見開かれる。
「熱っ……でもうまっ、うわ、トロトロ……え、なにこれ、ソースと生地の香りやばい……」
口の中で広がる懐かしい味に、彼女の表情が緩んでいく。
「昔ね、お祭りのたこ焼き屋さんでバイトしてたの。失恋しててさ、ソースのにおいで泣いたり笑ったりして……」
ぽつりぽつりと、そんな話が漏れていく。
「まるくなくても、たこ焼きはたこ焼き。少し形が崩れてても、心までほぐれていけばいいのよ」
忍さんがそう言って、カウンターに麦茶を添えた。
夜の深い静寂に、トントンと刻む音と、鉄板のジュウという音が、まるで心の調律のように響いていた。
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本日のレシピ:丸めないたこ焼き風鉄板焼き
材料(1人分)
タコ(茹でたもの)…適量
薄力粉…大さじ4
水…80ml
卵…1個
和風だしの素…小さじ1
紅しょうが・天かす・ねぎ…お好みで
ソース・マヨネーズ・かつお節・青のり…お好みで
作り方:
① ボウルに薄力粉、水、卵、だしの素を入れてよく混ぜる。
② 紅しょうが、天かす、刻みねぎを加えて、タコもざく切りで投入。
③ フライパンに油を熱し、混ぜた生地を流し込む(中火)。
④ 両面をこんがり焼く。丸くせず、フリットのような形でもOK。
⑤ 仕上げにソース・マヨ・かつお節・青のりをかけて完成!
アドバイス:
丸めなくていいから、時短&失敗しにくい。
タコがなければ、ウインナーやチーズでも代用OK。
冷凍庫の余り物消化にも最適レシピ。




