第115話:『マサの初恋と、ナポリタン』
「……しのぶ、ケチャップあるか」
いつになく不意に、マサが口を開いた。
「ケチャップ? あるけど……どうしたの?」
「たまには、ナポリタンでも作ろうかと思ってな」
しのぶは少し目を丸くした。
「え? マサさんが? ナポリタン?!」
「……文句あるか?」
「ないけど、想像つかないわ。
マサさんがケチャップまみれのフライパン振るってるとこなんて」
「……振るうさ、今日はな」
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赤い記憶の味
鉄鍋に油を引き、ウィンナーと玉ねぎをじっくり炒める。
ピーマンは後から。
茹でたスパゲッティを投入し、ジュッと音がして、
最後にケチャップを惜しまずに絡めていく。
しのぶが、つい聞いてしまう。
「ねえマサさん、なんで急にナポリタン?」
マサはフライパンをゆする手を止めなかった。
でも、ぽつりと一言。
「……昔、好きだった子がな。ナポリタンが得意だった」
しのぶは、目を丸くしてしまった。
「えっ、えっ!? ちょ、初耳よ!?」
「……高校んときだ。俺、料理なんか全然できなくて。
でもそいつが“マサくんは味見役”って言って、放課後によく作ってくれたんだよ」
「かわいいじゃないの、その子」
「うるせぇ」
マサがぼそっと言って、ナポリタンを盛り付ける。
「赤いソースで、口の周りベタベタにしてな。笑うときも口開けてて。
……うるさくて、明るくて、何もかも俺とは正反対だった」
「で、告白したの?」
「しねぇよ。そいつ、卒業したらさっさと都会出て行っちまってさ。
……俺だけ、料理だけ覚えた。
ナポリタンだけは、な」
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ナポリタンは、ただ懐かしく、甘酸っぱく、少しだけしょっぱかった。
まるで、思い出の味そのもの。
「マサさん……あたし、今日初めて知ったわ。
“味見役のマサくん”だったなんてね」
「……言うなよ、恥ずかしい」
「ふふっ。でも、いい初恋だったのね」
「……味は、悪くなかったよ」
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《本日のレシピ》マサの思い出ナポリタン(2人分)
材料
スパゲッティ…200g
玉ねぎ…1/2個(薄切り)
ピーマン…1個(細切り)
ウィンナー…4本(斜め切り)
ケチャップ…大さじ5〜6
バター…10g
塩・こしょう…適量
粉チーズ(仕上げ用)…お好みで
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作り方
1. パスタをやや柔らかめに茹でる(表示+1分)
2. フライパンにバターを溶かし、玉ねぎ・ウィンナーを炒める
3. パスタ、ピーマンを加え、ケチャップを全体に絡める
4. 塩・こしょうで味を調える。仕上げに粉チーズをふる
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マサの一言アドバイス
> 「ケチャップは焦がす寸前まで炒めろ。
甘さとコクが出る。
初恋の思い出と同じで――少し焦げてるくらいが、ちょうどいいんだ」




