第113話:『餡かけ焼きそばと、しのぶの隠れ家』
その夜は、少し肌寒かった。
外を吹く風が、まるで季節を巻き戻そうとしているかのように冷たくて、
店の暖簾も時折ふわりと舞い上がる。
「寒いねぇ、マサさん」
カウンター越しにしのぶがぽつりと呟く。
「……こういう夜は、“アレ”だな」
マサが火をつけながら言う。
「“アレ”?」
「お前がよく隠れ家で作ってたやつ。
あんかけ焼きそば」
しのぶが一瞬驚いたように目を開き、
すぐにクスッと笑った。
「……覚えてたの?あれ、“誰にも教えない秘密”だったのに」
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《しのぶの隠れ家》
それはまだ、しのぶがこの店に来る前のこと。
都内の片隅にある古びたアパート。
部屋は狭く、風呂もついていなかったが、キッチンだけは小綺麗にしていた。
「嫌なことがあった日はね、必ずあんかけ焼きそばを作ってたの。
“あん”って不思議よ。
どんなぐちゃぐちゃな具材でも、包んで、繋げて、まとめてくれる」
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マサが火を操り、カリッと焼いた中華麺を皿に敷く。
中華鍋で炒められる豚肉、白菜、人参、きくらげ――
そこへだし、しょうゆ、オイスターソースを合わせた“あん”がとろりとかかる。
ジュワッという音と共に、湯気が立ち上り、
それだけで体の芯まで温まりそうだ。
「これよ、これ。
この香りだけで、生きててよかったって思えるのよね」
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店に常連の老人がふらりと入ってきて、
「お、これはいい匂いだ」と微笑んだ。
しのぶが皿を差し出しながら言った。
「今日はね、特別な“しのぶの隠れ家レシピ”の日なの。
だから、これ食べた人は――もう秘密、共有しちゃった仲間よ」
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《しのぶの隠れ家レシピ》餡かけ焼きそば(2人分)
材料
〈焼きそば用〉
中華麺(蒸し麺)…2玉
ごま油…適量
〈具材〉
豚こま肉…100g
白菜…2枚
にんじん…1/4本
きくらげ(戻したもの)…適量
ピーマン・たけのこなどお好みで
〈あん調味料〉
水…200ml
鶏ガラスープの素…小さじ1
醤油…大さじ1
オイスターソース…大さじ1
砂糖…小さじ1/2
酒…大さじ1
片栗粉…大さじ1(水で溶いておく)
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作り方
1. 麺をカリッと焼いて器に盛る(両面きつね色に)。
2. 具材を一口大に切って炒める。豚肉に火が通ったら野菜も加える。
3. 調味料と水を加えてひと煮立ち。
4. 最後に水溶き片栗粉を回し入れ、とろみがついたら麺の上にかけて完成!
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しのぶの一言アドバイス
> 「うまくいかない日も、とろみで全部くるんじゃえばいいのよ。
焼きついた麺も、焦げた人生も――案外、あんかけが救ってくれるから」




