表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/154

第110話:『海鮮丼と、時を旅するふたり』


“未来”からの来訪者――時の旅人と、しのぶ・マサの店が交差する、

『深夜食堂しのぶ。』特別編・時の旅人篇をお届けします。



---


『海鮮丼と、時を旅するふたり』


ガラ……。


戸が開いた瞬間、店内の空気がほんの一瞬だけ凍ったような気がした。


「いらっしゃい」

マサが手を止めずに声をかける。


立っていたのは――妙に整った顔立ちの男女。

服装もどこか不思議で、時代の“匂い”が感じられない。


しのぶが奥から現れ、目を丸くした。


「……まぁ、また来たのね、時の旅人さんたち」


「久しぶりだな」

男が笑い、女も静かに会釈した。



---


彼らは「未来から来た」と言う。

信じるも信じないも、それはこの店ではどうでもよかった。


「注文は?」


「……海鮮丼、お願いできますか?」

男が言った。

「記憶には残ってるんです。“本物”を、もう一度、口で感じたいんです」



---


マサは黙って、厨房に立った。


冷蔵庫から取り出すのは、

・中トロ

・サーモン

・帆立

・イカ

・イクラ

・甘海老


そして――温かく、甘酢の効いた酢飯。


包丁が走り、ネタが丁寧に並べられていく。

海の恵みが、ひとつの器の中に咲く。


しのぶは、その様子を見ながら、ふと二人に問う。


「未来の食事って……ほんとに“サプリ”なの?」


「はい」

彼女が答える。

「栄養と記憶だけで、すべて済みます。味も、食感も、記憶から呼び出すだけ」


「それって、味気ないじゃない」


「でも、飢えも病気も、もう無いんです」

男が静かに続けた。

「ただ……心が“空腹”になることはあります。あの時代には、それを満たす手段がない」



---


マサが海鮮丼を出す。

彩り豊かで、まるで夜の海に浮かぶ宝石のよう。


ふたりは、箸を持つことさえ、どこかぎこちない。

それでも、そっと中トロを口に運ぶ――


「……温かい」


彼女の瞳が震える。


「これは、ただの魚じゃない……」


「そうだな」

男も口元をほころばせる。

「時間の味がする。

 潮の香りも、包丁の音も、誰かの想いも全部、この一杯にある」



---


しのぶは笑った。


「食べるって、ただ腹を満たすことじゃないのよ。

 “今”を噛みしめることでもあるの。ねぇ、マサさん」


「……料理は、保存できねぇもんだ」

マサがぽつり。


「だから、今ここにいる人のためにしか作れねぇ。

 ……それで、十分だろ」


ふたりの“時の旅人”は、静かに頷いた。



---


食べ終えたあと、彼女が懐から何かを取り出した。


「これは、私たちの時代の“記憶保存結晶”です」

「この食事と、この夜の記憶を、私たちの時代に届けます。

 きっと、誰かがまた“食べたい”と願うでしょう」


「……それがまた、“未来の誰か”の空腹を救うかもしれないわね」


しのぶの言葉に、未来からの客たちは深く頭を下げた。



---


《本日のレシピ》海鮮丼(2人分)


材料


酢飯:

 ご飯…2合分/酢…大さじ4/砂糖…大さじ2/塩…小さじ1


ネタ:

 中トロ、サーモン、イカ、帆立、イクラ、甘海老…各適量


トッピング:

 刻み海苔、大葉、わさび、白ごま



作り方


1. 酢飯を作って冷まし、丼によそう。



2. 刺身を綺麗に切り分け、彩りを意識して並べる。



3. 仕上げに海苔・大葉・白ごま・わさびを添えて完成。





---


しのぶの一言アドバイス


> 「“今”にしか味わえないもの、それが本物のごちそうよ。

想い出だけじゃ、腹は満たせないでしょ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ