第11話『母からの優しい贈り物。ズッキーニ』
時刻は夜の11時過ぎ。
ネオンの灯りが消えかけた街の片隅に、ひっそりと佇む小さな食堂――深夜食堂しのぶ。
今日も変わらず、木製の引き戸が音を立てて開いた。
「こんばんは……やってますか?」
入ってきたのは、やや疲れた様子の若い女性。腕には保冷バッグ、スーツの裾が少し濡れている。
「いらっしゃい。雨、ひどかったわね」
カウンター越しに柔らかく微笑むのは、店主の忍さん。その奥では、無口な板前のマサさんがちらりと目を向けて一礼した。
「何か、温まるものを……あの、ズッキーニってあ調理できますか?」
「ズッキーニ?」忍さんが目を丸くする。
「今日、田舎の母から届いたんです。たくさん入ってて。自分じゃ調理の仕方わからなくて……よければ、使ってもらえますか?」
差し出された保冷バッグには、瑞々しいズッキーニが数本。
「ふふ、いいのが届いてるわね。マサさん、お願いできる?」
無言でうなずいたマサさんが、ズッキーニを手に取り、静かにまな板へ。
ナイフが入る音。肉のこねる音。フライパンのジューッという音。
香ばしい匂いが漂い、カウンターの空気が少しだけ柔らかくなる。
「はい、お待ちどうさま」
置かれたのは、焼き色のついたズッキーニの肉詰め。
中には合挽き肉と玉ねぎ、ほんの少しのパン粉。チーズがとろけ、トマトソースがほんのりと乗っている。
「……いただきます」
スプーンでそっと切ると、熱気と香りが立ち上る。
ひと口、口に運んだ瞬間。
「……あ、なにこれ、優しい味……」
目を細めながら、彼女はゆっくりと噛みしめる。
「お母さんに、写真送ろうかな」
そんな呟きに、忍さんがふっと微笑んだ。
「今度は一緒に、来てね」
雨音はもう止んでいた。
彼女の頬に、ほんのり赤みが差していた。
---
本日のレシピ:ズッキーニの肉詰め
【材料(2人分)】
ズッキーニ:2本
合挽き肉:150g
玉ねぎ:1/4個(みじん切り)
パン粉:大さじ2
牛乳:大さじ1
塩・胡椒:適量
ピザ用チーズ:適量
トマトソース:適量(ケチャップでも可)
【作り方】
1. ズッキーニを半分に切り、中身をスプーンでくり抜く(舟形に)。
2. 合挽き肉、玉ねぎ、パン粉、牛乳、塩胡椒をよく混ぜてタネを作る。
3. ズッキーニに詰め、上にチーズを乗せて、フライパンかトースターで焼く(蓋をして中火で5分〜)。
4. 焼き上がったらトマトソースを添えて完成。
【ひとことアドバイス】
ズッキーニは加熱しても形が崩れにくく、淡白なのでどんな味にも合います。冷蔵庫で余りがちなお肉や野菜と一緒に、アレンジ無限です。
---
次回は「冷やしトマトときゅうりの浅漬け」をテーマにした、夏の夜の一話を予定しています。 進めてよろしいでしょうか?他の料理案も歓迎です!




