第109話:『苺大福と、旅の余韻』
しんと静まりかえった深夜2時。
外はまだ肌寒さの残る春先、しのぶとマサの店にも少しだけ季節の香りが漂いはじめた。
その時、ガラッ、と扉が開く。
「……あら、あなた」
しのぶが微笑んだ。
そこには、大きなリュックを背負った旅装の青年が立っていた。
顔は見慣れぬが、どこか馴染みのある空気を纏っている。
「茨城を旅してまして……石岡って町、ご存じですか?」
「石岡……聞いたことはあるわねぇ」
しのぶが首を傾げ、マサは黙って湯を沸かしはじめた。
「そこでね……“至高のいちご大福”に出会ったんですよ」
そう言って、リュックから丁寧に風呂敷を取り出す青年。
中には、可愛らしい和紙風の包みに「苺ちゃん」と書かれた包みが。
「店構えが素敵で、苺の季節限定。
しかも、ズッシリ大粒の苺がこし餡に包まれて、
さらにモッチモチのお餅にくるまれてるんです」
包みを開けると、ほのかに香る苺の香り。
しのぶが「まあ……!」と声を上げ、マサも少しだけ眉を動かす。
「しかもね、大粒苺なのに餡が水っぽくならない工夫もされてる。
プロの技ですよ。これ、ぜひ二人に食べてほしくて……」
「……ほう」
マサは一口かじり、静かに頷いた。
しのぶは、あまりの瑞々しさに、うっすらと目を潤ませていた。
「これ……まるで春の果実を抱きしめたお布団みたい。
甘いのに、涙が出そうよ」
「ん。うまい」
マサの言葉もまた、最高の賛辞だった。
青年は笑った。
「どんなに旅しても、誰かに話したり、食べてもらったりしなきゃ――
本当の味にならない気がして」
「……いい旅だったのね」
しのぶが言った。
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《本日の和スイーツ》苺大福(1個分)
材料
白玉粉…50g
砂糖…20g
水…60〜70ml
こしあん…30g(1個分)
大粒苺…1個
片栗粉(打ち粉用)…適量
作り方
1. 苺は洗ってヘタを取り、水気を拭き取る。
2. こしあんで苺をふんわり包み、冷蔵庫で冷やしておく。
3. 白玉粉・砂糖・水をよく混ぜ、電子レンジで1分→混ぜる→再加熱30秒〜1分。
4. 透明でもち状になったら片栗粉を敷いた台に取り出し、冷ます。
5. 適当な大きさにちぎり、苺あんを包む。
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しのぶの一言アドバイス
> 「苺は“生もの”だから、気持ちで包むこと。
雑にしたら、すぐ泣いちゃうのよ――苺も、誰かもね」




