第103話『茄子入り回鍋肉』
深夜0時を回った頃、いつものように、暖簾が揺れた。
入ってきたのは、どこか疲れた顔の会社員風の男。ワイシャツの袖をまくって、カウンターに腰を下ろす。
しのぶ。「いらっしゃい。なににしますか?」
「……なんか、ナス食べたい気分でさ」
そう言って、ため息まじりにポツリ。
マサが、包丁を研ぎながら片眉を上げる。
「ナス? 今の時期は安いな。うまいよ、油との相性がいい。……回鍋肉にでも入れてみるか」
「え、回鍋肉にナス? アリなの、それ」
「アリだ。いや……今日は、そういう気分なんだろ?」
マサは冷蔵庫を開けて材料を確かめる。
豚バラ、キャベツ、茄子、そして豆板醤と赤味噌。
何の変哲もない食材たちが、彼の手にかかれば魔法のように変わる。
「ナスは先に揚げ焼きにする。しんなりしてからじゃないと、タレが染みねえからな」
ジュワァ……と、茄子が油を吸っていく音が、店内に広がる。
そこへ、豚バラの香ばしい匂いが重なり、さらに味噌ダレの甘辛い香りが鼻をくすぐる。
「……くぅ、いい匂いだなあ」
「野菜は火を通しすぎると台無しだ。キャベツはシャキッとな」
やがて、湯気を立てながら皿が差し出された。
茶色い照りをまとったナスと豚バラ。キャベツの緑と赤味噌のタレ。
ひと口食べて、客は思わず箸を止める。
「……これ、うまいな。ナスがトロトロで、豚の脂と合って……味噌のコクもすごい」
「ナスってのは、寂しさと相性がいいんだ」
マサがポツリと言った。
「油を吸いすぎるって嫌うやつもいるがな。心が疲れてるときは、ああいうトロさが、沁みるんだ」
男は、静かにうなずいた。
皿の中のナスは、まるで、今夜だけの慰めみたいにやさしい。
そして皿が空になる頃には、顔の疲れが少し和らいでいた。
帰り際、男はふと振り返って、つぶやいた。
「……また、茄子入り、頼んでもいいかな」
「気が向いたらな」
マサの背中は、いつものように、無口なままだった。
---「回鍋肉茄子入り」は、コク旨&とろけるナスが絶妙に合うアレンジです。
中華の鉄板「豚バラ+キャベツ」に茄子のジューシー感が加わって、よりごはんが進む味に!
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《茄子入り回鍋肉》レシピ(2〜3人分)
材料
豚バラ薄切り肉…200g(食べやすくカット)
茄子…2本(乱切り)
キャベツ…3枚(ざく切り)
ピーマン or パプリカ…1個(あれば、彩り用)
長ねぎ(小口切り)…10cm分
ごま油…大さじ1
サラダ油…適量(ナス用)
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合わせ調味料(回鍋肉ダレ)
味噌…大さじ1.5
醤油…小さじ1
酒…大さじ1
みりん…大さじ1
砂糖…小さじ1〜2(好みで)
豆板醤…小さじ1(辛さ控えめなら少なめ)
おろしにんにく・おろし生姜…各小さじ1
※味噌は「赤味噌」または「合わせ味噌」がおすすめ。
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作り方
① ナスを炒めて取り出す
フライパンに多めの油を熱し、ナスを中火でじっくり炒める。
皮がしんなりして中まで火が通ったら取り出す。
② 豚肉を炒める
同じフライパンにごま油を入れ、豚バラを炒める。色が変わったら、豆板醤を加えて香りを立たせる。
③ 野菜を投入
キャベツ・ピーマン(あれば)を加えてサッと炒める。
火を通しすぎないように、シャキシャキ感を残すのがコツ。
④ ナスを戻し、タレを絡める
炒めたナスを戻し、混ぜ合わせた【合わせ調味料】を回し入れて中火で絡める。
全体がツヤツヤになったら火を止め、器に盛りつける。
⑤ 仕上げにねぎを散らして完成!
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ポイント&アレンジ
ナスは揚げ焼き風に油を吸わせてジューシーに仕上げると絶品。
味噌ダレは甘辛濃いめが鉄板。ご飯との相性バツグン。
残ったら、次の日に温かいごはんの上にのせて**「茄子入り回鍋丼」**も最高。




