第100話:サンドイッチ
孤独な深夜食堂『何だかんだで、独り飯。』
『深夜食堂しのぶ。』
深夜一時に灯る、暖簾の明かり。
名も知れぬ路地裏に佇むその店『深夜食堂しのぶ』は、
今日もどこか寂しげな、誰かの空腹と心を満たしていく。
メニューは少ないが、希望の味には応えてくれる。
――ただし、「その理由」があれば、ね。
優しそうなおかみ“忍”と、無口だが腕の立つ板前“マサ”が静かに営むその店に、
今日もまた、一人の“客”が扉を開ける。
深夜のひととき、心と腹を満たす、ちいさなごちそうの物語。
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第100話:サンドイッチ
「……あの、サンドイッチって、作れますか?」
午後11時を回ったというのに、外はまだ蒸し暑さを残していた。
深夜食堂しのぶの扉が静かに開いたのは、ふらりとした足取りの女性だった。
白いブラウスにベージュのスカート。手には小さなトートバッグ。
「うちは定食が主だけど……」
おかみ・忍は柔らかな声でそう言いながらも、マサを見る。
カウンターの向こうで黙って頷いた彼が、冷蔵庫を開け始める。
「じゃあ、ハムとキュウリ、それに……卵のサンドイッチで」
「……マスタード、入れる?」
「……はい。ちょっとだけ、大人っぽく」
しばしの沈黙。
マサの手が静かに動き、まな板の上にキュウリが転がる。
卵は荒く刻まれ、たっぷりのマヨネーズで和えられる。
その中に、忍が取り出したのは――刻んだ沢庵。
「これがアクセントなの。私の、ちょっとした秘密ね」
女性は、ふっと笑った。
出来上がったサンドイッチは、四角い皿に綺麗に並べられる。
ふわふわの食パンに、少しだけピリッとしたマスタード。
カリッとした沢庵の食感が、不思議と優しい。
「……うん、美味しい。これ、昔、母が作ってくれた味に少し似てる……」
女性の目が、少しだけ潤んでいた。
「きっと、優しい人だったんだね」
忍の言葉に、女性は小さく頷いた。
帰り際、彼女はトートバッグを肩にかけて言った。
「……このお店、なんて名前なんですか?」
「“しのぶ”っていうのよ。深夜食堂、しのぶ」
「また来ます。……母の味が恋しくなったら」
静かに、扉が閉まる。
今日もまた、誰かの記憶が、ひとつ温められていった。
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本日のレシピメモ
【サンドイッチ:2種】
ハム&キュウリサンド
食パン(8枚切り)2枚
ハム2枚
スライスキュウリ適量
マスタード入りマヨネーズ(小さじ1)
たまご&沢庵サンド
茹で卵(固ゆで)1個
マヨネーズ大さじ1
刻み沢庵少々
食パン(8枚切り)2枚
たまごは潰しすぎないのがコツ。沢庵のカリッとした食感がアクセントに。




