表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/152

第10話「ほっけの塩焼きとホッケのフライ」



 


「いらっしゃい――」


のれんをくぐると、出汁の匂いと、微かに焼き魚の香ばしい香りが鼻をくすぐった。


午後十一時過ぎ、都内の片隅にある【深夜食堂しのぶ】は、今夜も静かに灯を灯していた。


カウンターの奥には、無口だが優しい笑みを浮かべる板前・マサさん。


そして、柔らかな物腰の“おかみさん”こと忍さんが、客を迎えてくれる。


 


「ご注文は?」


「……ほっけの塩焼き、いけますか?」


 


会社帰りのスーツ姿の女性客が、ひと息つきながらそう告げた。


年の頃は三十代半ば、黒髪を一つにまとめ、少し疲れたような表情をしていた。


 


マサさんが頷き、冷蔵ケースから肉厚の縞ほっけを取り出す。


網に乗せて、じわりと火にかけると、すぐに脂がじゅうじゅうと音を立てた。


 


カウンターの中で、忍さんがそっと話しかける。


「お仕事、お疲れ様。今日は大変だったの?」


女性は、小さく頷いた。


「営業がうまくいかなくて……でも、帰るより、なんか……魚が食べたくなって」


 


程なくして、香ばしく焼き上がった塩ほっけが、湯気と共にカウンターに置かれる。


「どうぞ、熱いうちに」


 


箸を入れると、白くほぐれた身がふんわりとほどける。


口に運べば、しっかりとした塩味と、脂の甘さが広がった。


 


「あぁ……なんか、こういうの、沁みる……」


一口ごとに、顔から力が抜けていくようだった。


 


その時、マサさんが一歩前に出た。


「よければ……これも、食べてみますか」


そう言って差し出したのは、黄金色のフライ。


「ホッケの……フライ?」


 


忍さんが笑って補足する。


「ホッケって焼くだけじゃないんです。揚げても美味しいんですよ。衣の中でふっくらして」


 


女性は恐る恐る、箸でひと切れを口に運んだ。


 


「……!? これ、なんだか……すごい!」


表面はサクッと軽く、中はしっとりとした白身。


ソースとレモンがほんのりアクセントを加えてくれる。


 


「昔、実家で母が揚げてくれた魚を、ちょっと思い出しました」


 


マサさんは笑みを浮かべながら、次の客の注文へと手を動かす。


忍さんがそっと言った。


「料理って、記憶とつながってるのかもね。……疲れた心を、ちょっとだけほどいてくれる」


 


女性はうなずき、残ったフライにもう一度、箸をのばした。


 


 



---


今夜のレシピ:ホッケのフライ


【材料】(2人前)


ホッケの切り身:2枚(塩味が強い場合は水で軽く洗う)


塩・胡椒:適量


小麦粉:適量


卵:1個


パン粉:適量


揚げ油:適量


レモン・中濃ソース:お好みで



【作り方】


1. ホッケに軽く塩胡椒を振る。



2. 小麦粉→卵→パン粉の順で衣をつける。



3. 170〜180℃の油できつね色になるまで揚げる(約3〜4分)。



4. 油を切り、お好みでレモンやソースをかけて召し上がれ。




【ひとことアドバイス】


塩味が強めの干物を使う場合は、水に10分ほど浸してから調理するとマイルドに。


フライにするときは、中骨をあらかじめ抜いておくと食べやすいです。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ