第1話「玉子焼きだけど、少し甘くて、ちょっとだけしょっぱいやつ。」
カランカラン……
深夜の商店街。シャッターが並ぶ中、小さな音を立てて食堂の扉が開いた。
「こんばんは……まだ、やってますか?」
入ってきたのは、スーツ姿の青年。
顔には疲れがにじみ、ネクタイは緩んでいる。
店主らしき中年男性は、新聞を置いて静かに頷いた。
「やってるよ。席、どこでもどうぞ」
青年はカウンターの端に腰を下ろすと、周囲を見回した。
客は他にいない。壁には年季の入ったメニュー札がぶら下がっている。
「すみません……なんか、玉子焼きが食べたくて」
「玉子焼きね。甘いのと、しょっぱいの、どっちがいい?」
「……どっちも、ってできますか?」
店主は目を細めて微笑んだ。
「できるよ。“どっちも”は、けっこう好きな人多いんだ」
火が入る音。
油がじゅっと鳴り、卵液が流し込まれる。
ふんわり焼かれた層に、少しの砂糖、そして、だし醤油が香る。
くるくると巻かれた玉子焼きが、皿に盛られた。
「はい、お待ち」
ひとくち食べた青年が、目を見開いた。
「……うまい」
じわりと、舌に広がるやさしい甘み。
後からくる、懐かしいようなしょっぱさ。
「あの、なんか……母親の味、っていうか……」
言いかけて、口を閉じた。
店主は、そっと湯呑を差し出す。
「お茶、熱いから気をつけて」
青年は笑った。
静かな深夜の店に、温かい湯気と玉子の香りが広がっていた。
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本日のレシピ:『甘しょっぱ玉子焼き』
材料(1人分)
卵……2個
砂糖……小さじ1
だし醤油……小さじ1
サラダ油……少々
作り方
1. 卵を割り、砂糖とだし醤油を加えてよく混ぜる。
2. 卵焼き器に油をひいて熱し、少量ずつ卵液を流し込んで巻いていく。
3. 焼き上がったら、食べやすい大きさにカットして完成。
ひとことアドバイス
・甘めが好きな人は砂糖を多めに。しょっぱめ派は醤油をほんの少し足して調整して。
・冷めても美味しいから、お弁当にもおすすめです。