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春の笑顔

 キャンパスは桜で溢れていた。

 春風が花びらをそっと撫でる。

 空野裕樹(そらの ゆうき)は講義を終え、

 教室のドアをくぐる。

 一人暮らしと慣れない教室、

 そして、まだ慣れない街は心にざわめきを生む。

 でも、心を動かすのは、

 きっと街のせいじゃない。

 頭の中は、

 あのコンビニの笑顔で埋まってる。

 昨日、レジでハプニングがあった。

 「“お袋”いりますか?」を、

 遥香がやらかした。

 真っ赤な顔を、

 「また会えますか?」の声を、

 思い出すと、

 心がちょっと温まる。

 知らない街のはずなのに、

 なんか特別な感じがする。

 裕樹はその笑顔のおかげだと振り返る。


 講義棟の廊下を、

 人波をかき分けて歩く。

 と、突然――。

「あ!」

 明るい声が響く。

 振り返ると、

 天野遥香(あまの はるか)が手を振ってる。

 花柄のバッグを、

 春の日差しがキラキラ照らす。

 心が、ドキッと跳ねる。

「うお! あのお袋の!」

 裕樹は笑いをこらえきれない。

 あのコンビニの記憶を、

 一気に思い出す。

 遥香はバッグを握り直し、

 ペンをポロッと落とす。

「もう! お袋じゃないし、忘れて! 私にはちゃんと天野遥香って名前があるんだよ!」

 遥香は頬を膨らませ、

 ペンを拾う。

 その目は、

 楽しそうに笑ってる。

 なんか、ズルい笑顔だ。

「ハハ、ごめんごめん! 俺は空野裕樹だ。ゆうきって呼んでいいぜ。」

 裕樹はニヤッと返す。

 心は、なんか弾む。

「じゃあ、私も遥香で! よろしくね、ゆうきくん!」

 遥香はニコッと笑う。

 その笑顔は、

 桜より眩しい。

 心が、じんわり温まる。

「ほんと、運命っぽいよね! 昨日の今日で同じ大学なんて!」

 遥香はスキップ気味に言う。

 裕樹は、

 このまま話を続けたい。

 時間が止まればいいのに。

 でも、現実はそれを許さなかった。

「あ、次の講義もうすぐだ! じゃ、また後でね!」

 遥香は名残惜しそうに手を振る。

「おう、また後でな。」

 裕樹は笑顔を返す。

 遥香の背中は、

 桜並木に消えた。


 大学にも慣れた頃

 講義を終えた裕樹は広場に向かう。

 ベンチには、

 見知った3人の顔がある。

 星宮すばる、

 裕樹の幼なじみだ。

 白石沙月、

 天野遥香。

 教育学部の3人は、

 いつも一緒にいる。

 その姿を、

 見ると心がザラついた。

 すばると、

 最近、距離がある気がする。

 遥香とも、

 もっと話したいのに。


(はぁ、らしくないな。行くか。)


 裕樹はその顔に笑顔を貼る。

 いつものノリで、

 場を盛り上げる。

「おいおい、すばる! 俺をほったらかしで、女の子二人連れ歩いてんじゃねえぞ!」

 裕樹は笑いを響かせ、

 すばるの肩を軽く叩く。

「ゆうき、そんな言い方すんなよ。ただ話してただけだって。」

 すばるは慌てて弁明する。

 遥香は、すかさず、

「ねえ、それって嫉妬? まさかゆうきくん、すばるのこと狙ってたりして!」

 ニヤッと笑う。

 その目は、

 なんか、ドキッとさせる。

「うお、冗談やめろ! 俺が狙うなら、もっと華のあるタイプだっつーの!」

 裕樹は肩をすくめて笑う。

 でも、顔は、

 ちょっと熱い。

 バレてねえよな?

「でも、ちょっと寂しいじゃねえかよ。すばると最近、ゆっくり話せてねえ気がするし。」

 裕樹はポロッと本音をこぼす。

 大学に入って、

 すばるとの時間を、

 なんか減らしてる。

 それが、モヤモヤする。

 一瞬、

 空気が止まる。

 すばるは立ち止まり、

 裕樹の顔をじっと見る。

「そっか……ごめん、ゆうき。」

「いや、別に謝んなって。なんか深刻そうに見えるだろ。たまには男同士で飯でも行こうぜ。沙月と遥香に取られっぱなしじゃ、俺のプライドが傷つく!」

 裕樹は笑って誤魔化す。

 ノリで、

 なんとかする。

「取られたって……!」

 沙月はわざとムッとした顔。

 遥香は笑いながら、

「じゃあ、今度はみんなでランチしようよ!」

 目をキラキラさせて言う。

「それいいな! 俺も混ぜてくれよ、すばる。沙月と遥香だけじゃなく、ちゃんとおれもいるんだからな!」

 裕樹は胸を張る。

 沙月と遥香は、

 笑顔で頷く。

 4人でキャンパスを歩く。

 新しくできたカフェを、

 誰かが話題に出す。

 次の講義の話を、

 みんなで笑う。

 笑い声は、

 春風に混じる。

 なんか、

 この瞬間、いいな。


 すばると沙月が前に出る。

 裕樹と遥香は、少し後ろを歩いていた。

「ねえ、ゆうき。ちょっと寂しいんじゃない?」

 遥香はからかうように小声で言う。

 その声には、

 優しがこぼれていた。

「寂しいっていうか、付き合い悪いなーってだけだよ。」

 裕樹は笑って返す。

 でも、心は、

 チクッと痛む。

「それ、ほんとー?」

 遥香は首を傾げる。

 その仕草は、

 なんか、可愛い。

「あんだけ近くにいたのに、なんか遠く感じるっつーか。すばるも立派になったな、ってさ。」

 裕樹は冗談っぽく笑う。

 昔から、

 すばるを支えてきた。

 でも、すばるが安心してる姿を、

 見ると、

 自分の役割が無くなってきた気がする。

 それが、

 なんかモヤモヤする。

 遥香は、

 その疎外感を、

 感じ取ったみたい。

「大丈夫だよ。私がいるからさ。」

 遥香は肩を軽く叩く。

 その笑顔は、

 なんか、ホッとする。

 裕樹は、

 「ありがとよ」と笑う。

「なんか暗くなっちゃったね。気分転換しよ! 今日、夕方ゲーセン行かない?」

 遥香は急に振り返る。

 その笑顔は、

 心をドキッとさせる。

「行く行く! ちょうど暇だし!」

 裕樹はノリノリで答える。

「おっけー! ゆうきの奢りね!」

「なんでだよ!」

 遥香は笑いながら、

「ね、すばる、沙月、ゲーセンどう? 夕方ならいける?」

 前に出て声をかける。

「ごめん、課題遅れてて……今日、図書館寄るよ。また今度誘ってくれ。」

 すばるは申し訳なそうに言う。

「そっかぁ。でも、ちゃんと返事してくれるすばる、えらい! じゃ、また今度ね!」

 遥香は元気よく返す。

 沙月は、すばるを見て、

「課題、大丈夫? 私、ちょっと手伝えるかも。」

「ほんと? 助かるよ、沙月。」

 すばるは柔らかく笑う。

「じゃ、ゆうき、私とゲーセン! 沙月は?」

 遥香は振り返る。

「うーん、私、今日はパスかな。課題見直したいし。」

 沙月は静かに笑う。

「よし、遥香、二人で勝負だ!」

 裕樹はニヤッと返す。

「ふーん、ゆうき、負けないよ!」

 遥香は笑顔で言う。

 その目は、

 心を跳ねさせる。

 キャンパスの春、

 笑顔を、

 なんかドキッと動く心で埋める。

 この春は、

 なんか、始まりそうだ。

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