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ひとくぎり

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 斑鳩シンリョウジョ

 

「おいおいおいおいおいおいおいおいおい大変だ!」

「うるさい黙れ!」

 堂馬銃瑠が診療時間関係なしに騒がしくやってきたのでいかるは思わず怒鳴ったが

「立里アズマが死体となって見つかった!」という報告を聞いてフリーズした。

「えっ、死体・・・って・・・」

 いくらわずかな時間といえど、喋った事のある相手の訃報は流石にショックを食らったようだ。

「一応写真あるが・・・見るか?」

「・・・えぇ」

 タブレット端末にアズマの死体画像が映し出されていた。

「こ・・・れ・・は・・・?」

 首のない死体から勢いよく花が咲いている、パッと見ただけではそういう映画のポスターの様だった。

「場所は電脳街の中心部だそうだ」

 そこはいかるにとって聞き覚えのある場所だった。

「電脳街って確か・・・あの薬が・・・」

「あぁそうだ、おおかた仕入れに行ってたんだろう。もっと至近距離で撮ったものがあるがこっちは見ないほうがいい。まぁ要するに人間の仕業かよこれがって感じのやつだ」

「いったい誰が・・・」

「ここまできたらこいつの周りにいたやつと見ていいだろう。誰か心当たりはないか?」堂馬は少しバツの悪い表情になる。「あぁ、一応あんたにも聞いてるがこんな事はしねぇってわかっているからな。職務上な」

 あの男の周辺にいた人物に心当たりは無いこともない。しかし、どう考えてもこんな事をできる様な子じゃあない。

「一応・・・彼の周りにいた人物で一人心当たりはあります。ただ・・・とてもこんな事をする様には・・・」

 橘結羅がこんな事をするとは思えない、それにもしやるとしてももっと違う殺し方をしていたはず、そう思うしかなかった。

「ん、とりあえずその人物の名前聞いとこうか。あとはこっちでやるから」

「・・・・・」

「もし庇うなら、場合によっちゃあんたも罪になる可能性があるぞ」

 いかるは彼女がやっていない事を信じ、橘結羅について知っている事を話した。

 

 堂馬と蒲田が去った後、いかるはうなだれた。自分でもわからなかったが思っていた以上にショックがあったようだ。

「あの・・・大丈夫ですか?」

 大和は初めて見るいかるの姿にそう聞かずにはいられなかった。あの男の事は殆ど何も知らない。

「彼の治療をしたかった」ただそれだけだったのかもしれない。「大和くん」

「はい」

「この能力は・・・症状は・・・いや病気は、本人の心にも関係しているんだと思う。そう思ってから私は・・・私には治せない症状が出てくるんじゃないかって・・・きっとあの男がここに来ても・・・私には治せないんじゃないかって思っていた」

「そんなこと・・・」

「私の能力は・・・脳に電気を流して症状を落ち着かせる事だ。けど人間には頭だけじゃなく心もある。あの男を治すなら心だ。そして私に心はわからない」

 

 

 堂馬と蒲田は橘結羅の自宅前にいた。チャイムを鳴らすと、結羅本人が現れた。

「あー、ちぃっとお話しいいかな?お兄さんたちこー言うもんだけど」

「えっ警察・・・!?私何も知りません!」

「あー大丈夫大丈夫!シンリョウジョのお姉さんから色々聞いてるから!とりあえず立里アズマは知っているね?」

「えっ、はい知ってます・・・?」

「オッケー、とりあえず彼がそのー、殺されたみたいでね」

「えっ?!」

「橘結羅さんだよね?」

「そうです、でもこの人とはもう会っていません!」

「OKそれも聞いてる!まぁ落ち着いて。お兄さんが聞きたいのはね、橘さん以外に彼と行動していた人物がいたかどうかなんだよね、何か知らないかな?」

 結羅は言葉につまった。もちろん知っている、けれど言いたくない、真希奈さんはそうするしかなかったんだという気持ちが渦巻いている。

「一応君にも放火の疑いがあるんだけど、もし話してくれたら全部この男のせいという事にしとくけど、どうだ?」

「実は・・・」

 結羅はこの間の池袋での出来事を話した。

「オワリ・マキナね、漢字はどう書くんだ?信長のとこの尾張に?真に希むに奈落の奈ね。ご協力サンキューな!じゃ、失礼ィ!」



  電脳街・虚兎商店

  

 アズマたちが店を出て数時間後、そろそろ店じまいをしようとランメイが表のシャッターを閉めようとしていたとこに、男が声をかけてきた。

「失礼」

「はい?」

 流暢な広東語で話しかけられたので無警戒で返事をしたが、男は日本から来た警察だった。

「ここの言葉、お上手ですね」

 男は一枚の写真を取り出した。写真には立里アズマが写っていた。

「・・・・・なにか?」

「先ほどこの男が死んでいるのが見つかった」

「えっ」

「この男の事を知っているな」ランメイはしまったと思ったがもう遅かった。「詳しく話を聞かせてもらう」

「・・・いやだなぁお巡りさん、いきなり”死んだ”なんて言われたら誰だってびっくりするじゃあないですか」

「日本からただのお巡りさんがわざわざ[#「ただのお巡りさんがわざわざ」に傍点]こんなところにまで来るとお思いか?」

 そう、この男は警視庁公安部外事課第七係のコードNo.9である。第七係とは主に国外における特殊能力対策のために外事課に新設された部署であり、迫水や堂馬たち準公部の直属の上層部の一つにあたる。

「この男がここで法外な薬物を購入していた情報が入っている」

「・・・・知らないねぇ。アタシはここで電脳街の物産[#「電脳街の物産」に傍点]を売っていただけだよ。あんたの国じゃ違法かもしれないがここじゃ合法のものなんかわんさかある。買った後のことなんか知らないよ。こっちも商売だからね」

「この男と一緒にいた女がいたはずだ。そいついついて教え」

「知らないよ、あたしもさっき初めて会ったんだ・・・って、えっ?あれっ?」

 目の前で喋っていた男が消えた。

 

 No.9は突如縛られ口も封じられていた。そして目の前には死んだはずの男・立里亜瑞麻がいた。

 

「ヤァこんにちは、ご機嫌はいかが?」

 

『そんなバカな、さっき遺体を確認したはずだ』状況を理解できないままいると、No.9はさらに異様な光景を見ることになった。

 目の前にいる男の姿は見目麗しい女へと姿を変えた。

「やっぱこの姿がお気に入りだなー私は。じゃ、ちょっと失礼しますね。」

 No.9は頭に指を立てられると、やがて脳のなかで寄生虫が暴れているような感覚に陥った。

「ふんふんふんなるほどなるほど・・・へぇ・・・あんた公安のくせにあの薬使って能力覚醒したんだぁ〜」

「あっ・・・あっ・・・おっ・・・俺だけッ・・・じゃっ・・・あっ・・・」

「へぇ〜・・・公安様がそんなことやっちゃっていいんですかねぇ〜?」

 さらに脳を探ると、彼の能力が超記録という事がわかった。これだけ見ればサヴァン症候群だが、さらに映像としてデータ化、手元の端末にアップロードが出来るようだ。

 真希奈はまだアップロードされていないであろうこの時間の記憶を消去、さらにスキャンを完了させて再びアズマの姿になり、時を止めた。

「んじゃ、あんたの持ってる端末頂くよん」

 常時仕様の端末の入手と生命の危機を感知した瞬時に映像がアップロードされる緊急用の端末を破壊。そして彼の持ち物を完全に没収したのを確認すると、誰も来ることのない旧九龍地下水脈跡地まで移動させ、回収していたアズマの銃を頭部に密着させて発砲した。

「記憶を消すだけでも良かったけど・・・もうデータ送っちゃってるみたいだったから・・・ごめんね!」

 場所を離れNo.9に変身、アズマの能力が解除され時が動き出し、No.9は死亡した。

「こちらNo.9、立里アズマの協力者と見られる人物を完全に見失った。これ以上の任務の遂行は不可能と判断。これより帰国する。」

 真希奈はNo.9としての仕事[#「No.9としての仕事」に傍点]を終わらせると、再びアズマに変身した。

 

  虚兎商店

  

 ランメイは目の前にいた男が消失した状況にわけがわからなくなっていた。幽霊にでも話しかけられていたのだろうか?だとしたら公安の幽霊ということになるのでそんなわけないだろう。

 すると、目の前にアズマが現れた。

「おい!なんだよ生きてるじゃねぇか!さっきアンタ死んだってやつが現れてさぁ!」

「あぁ、死んだよ」

「そーだよなー!死んだよなー!え?」

「アズマなら死んだ。私が殺した」

「あ、アンタ・・・・誰だ・・・あっ」さっきアズマが連れていた変身の子だと気づいた。「さっきの・・・確か名前は・・・えっと」

「私はもう誰でもない。じゃ、さようなら」

 

 この夜、ランメイはこの日のことを鳳麗麗に知らせた。

 

 

 準公安部特殊能力特別対策室

 

 立里アズマの訃報から一夜が明け、迫水凛桜室長をはじめ井出悠季、堂馬銃瑠、風道院 翔、海野橙里、阿部日向、玉那覇アレックス、響 勇雷、蒲田慎司の全員が揃っていた。

「さて、立里アズマの死についてだが、わかっていない事が多い。上層部からの情報によれば彼の協力者により殺害されたと見ていいだろう。そしてこの動画が送られてきた」

 迫水はNo.9から送られてきた動画を再生した。映像には電脳街を歩く立里アズマの姿があり、彼の横に協力者であろう人物がいた。

「どっかで見たような・・・あ、診療所のねーちゃんだ」堂馬だ。

「診療所?このメモにある斑鳩シンリョウジョというやつか?」

「あぁ、多分」

「すると、そのシンリョウジョの斑鳩という人物が彼の協力者ということか・・・」

「いや違う、多分だがこれに映っている斑鳩のねえちゃんは別人、というか偽物だ」

「偽物?どういうことだ」

「変身の能力者だってこった」

「あぁ、なるほど・・・」

「うっわ厄介っすねー」海野が言った。

 しばらく彼らの後を追跡しているような映像が続いたので映像を飛ばすと、”虚兎商店”という看板が掲げられた店舗に入っていった。

 中からこの店の店主らしき女が姿を現し、彼らを招き入れた。

「・・・音声はないのか?」風道院が聞いた。

「・・・みたいだな。電脳街のこの感じじゃ音声があってもよくわからないだろうけど」

 しばらくすると虚兎商店からアズマが出てきた。隣には服装こそ変わっていないが先ほどとは明らかに違う人物がいた。

「・・・マジかよ」

「なるほどな、確かに”変身”していたようだ」

「あぁそうだ」堂馬だ。「変身能力者についての情報がある。本名は尾張真希奈、情報元は橘結羅、アズマと行動をともにしていたうちの一人で尾張真希奈とも親しかったようだ。

 んで、彼女は橘結羅にアズマを殺したいと言っていたそうだ」

「動機も十分だな。しかし、この姿が本来の姿と見ていいのか?」凛桜は慎重に慎重を重ねたい気持ちがあった。

「後で橘結羅にこの映像を見せればわかるだろう」

 映像はそのまま二人のデートムービーのようなシーンが続いた。挙げ句の果てに今にも崩れそうな建物の屋上で長く深いキスをしていた。

「・・・・楽しそうだなこいつら」

 それから二人はまた虚兎商店に戻り入店、用事を済ませたのか店を出てどこかへ歩き出すと、尾張真希奈の姿が立里アズマになり忽然と姿を消した。

「は?」

 二人を見失った事で映像が大きくブレ始め、サスペンスが始まったかの様だった。

 フェイクドキュメンタリー映画の様な、見ているこっちが酔いそうな映像が続き、首のない死体が映し出された。

 時間にして1分も満たない短い間だった。

「なぁ、この二人が消える直前と直後をよく見くれないか」

 堂馬は症状によって非常に目がよくなっている。集中すれば画面内の情報を全て判別する事ができる。

 堂馬の言う通りに映像を比較してみると、二人が消える前と後とで店舗の看板が取れていたり、〜いたりと街中にダメージが急に増えていた。

「時間を止めた中で殺したって事か?」風道院が髪をいじりながら言った。

「おそらくな。だいぶ殺しあったはずだ」

 

 

 尾張真希奈

 

 私は全てから解放され”自由”を片手に謳歌していた。今の私は誰にでもなれるし、なんだってできる。自分の足でどこへでも歩いていける。

 これからどうしようか。私は捕まったら死刑になるだろうか?でもそれぞれの人の記憶を読めば今の自分がどれくらいの位置にいるかわかるから私が捕まることはないと思う。大丈夫。

 ここはどこだろう、今の私はどこにいるんだろう。見渡す限りの地平線は魂を解放させてくれる。

 あいつは風になった。私が風にした。

 日本にはしばらく戻らないし戻りたくない。戻らないほうがいいかもしれない。自由に飽きたら戻る事にしよう。私は歩いてゆく。どこまでも、どこまでも

 

 

 警視庁公安部特殊能力対策課

 

 迫水凛桜率いる準公部特対室の直属の上層部である。外事課第七係と連携する事で国内外の能力犯罪を対処可能としている。

 外事課第七係No.9から送られたデータを元にこれからの捜査の方針を探っていた。

「外七(外事課第七係の略)の情報によれば立里アズマの隣にいるこの人物がコード・ロキだろう。他に情報は?」

「コード・ロキ、人物名はオワリ・マキナ。過去の経歴等も入手できているもののアズマと接触以降の詳細は不明。そして自殺に見せかけた連続殺人の重要参考人だが・・・どうする、指名手配を出すか?」

「いや、しない方がいいだろう。もう本来の姿を公開しても意味はない。それに変身の能力は無関係の人間にも疑心暗鬼を生む。今回は公表せずに自殺のままにしておいた方がいいだろう」

「では立里亜瑞麻殺害の容疑に絞り捜査を続行する。オズ、聞いていたか?」

「あぁ、聞いている。情報はそれだけか?」

「今のところはな」

 小津の後ろの方で“おーいエイジくーんそろそろ閉めるぞー何やってるー”と女の声がした。

「バイト中[#「バイト中」に傍点]だったか」

「あぁ、はーい!もう少しで終わりまーす!すまない、一旦切る」

「エイジとはまたお前の能力らしい名前じゃないか」



 斑鳩シンリョウジョ

 

「英司くん、働き者なのは助かるけど時間は守ってほしいなぁ」

「すいませーん」

「誰かと話してなかった?彼女?」

「まぁそんなもんっす、あはは」

「後はやっとくから早く行きな」

「ありがとうございます!おつかれさまです!」

 

 バイトを帰し一人になった。

 いかるはふと『この家に一人でいるのは贅沢だろうか』と思いながら天井を見上げた。

 ちょっとした中世の屋敷のような場所で一人の夜は気が休まるが、たまに寂しくなる。

 いっそのこと恋人をこっちに呼んでしまおうか。そんなことを思っていたら麗麗からの着信が来た。なんというタイミングだろうか。

「あーもしもし、今いい?」

「なにどしたの」

「・・・声暗いね、何かあった?」

「ちょっとね、で、なに?」

「・・・前さー私電脳街に行ってたじゃない?」

 こんな時間だというのに麗麗の声は活気がある。今の今まで仕事をしていたのだろうか。

「そこのえーと・・・なんとか商店の若いねーちゃんにアズマが来たら連絡もらう様にしてたのよ。そしたらさー」

「死んだんでしょ」

「あれ?もう知ってんの?」

「警察の人から聞いた。事情聴取も兼ねてたっぽいけど」

「あーそうなんだ。じゃあツレがるんるんに変身してたって話は?」

「あー・・・それも聞いてるというか・・・かもしれないっていうかやっぱりっていうか」

「なんだ結構把握してんじゃん」

「なんか警察の人がもう取引相手みたいな感じでくるんだよね」いかるの脳裏に元気でうるさいあの声が響いた。

「うちにも来たよー警察の人。なんか準公?とかいう部署みたいだけどけっこーマークされてたみたいだねアズマってやつ」

「警察優秀だね」

「あはは確かに。あぁそーだ、そんでさーそのツレの人?なんでるんるんに変身してたんだろ?かわいいから?」

「なわけ、きっと能力的なとこだと思うよ」

「・・・るんるんの能力が変身に必要だったのかな?CTスキャンみたいなことができるんだよね?」

「CTっていうかなんていうか・・・まぁスキャン」

「他は?」

「んー・・・あとは・・・記憶を消すとか」

「え、そんなこと出来たの」

「言ってなかったっけ?」

「言ってないよ、え、あたしの記憶消してないよね?」

「あはははは消すわけないじゃん」

「面白かった今の?」

「うん」

「よかった。

 ・・・変身でスキャン能力使う必要ってあるかな?」

「ない・・・・いや、あるかも」

「なに?心当たり?」

「うん、あのね」

 いかるは前に堂馬に見せられた事件現場の資料を思い出しながら一通り話した。

「はぁー・・・指紋が完璧になっていったんだ」

「だから私に変身した状態で能力を上げてたら変身する相手の解像度・・・みたいなのをあげていてもおかしくはないかも・・・」

「変身の精度を上げるためにるんに変身したってこと?」

「考えられるとしたらそんなとこかなー・・・」

「なるほどねぇ・・・で、いつそいつに会ったの?」

「え?会ってないけど」

「え?なんで?おかしくない?」

「え?」

「変身の精度上げる必要があるって事はさぁ、変身のクオリティ的に情報が必要なわけでしょ?変身の能力がどんなものかわかんないけど全く知らない相手には変身できないんじゃないかなぁ」

「・・・うーん?そうなのかな?アズマから聞いてたんじゃないの?私のこと」

「だってるんるん立里アズマと何回会った?」

「・・・1回かな」

「たった1回会ったやつが相手の人間性とかわかんないっしょ?」

「うーんそうかな、そうかも。あ、そういえば」

「ん?」

 いかるは重大なことを忘れていた。

「変形の症状に成り済ましたお爺さんがいたんだよね」

「・・・・・ん?」

「古畑きょうしろうだったかな、なんかそんな名前の人が来たことあって警察の人に調べてもらったら成り済ましだったんだって」

「じゃあそいつじゃん!そいつがあいつのツレじゃん!」

「まじかぁ・・・いやでもだとしたらやっぱりおかしいな」

「なんでよ」

「私が調べた時確かにそのお爺さん嘘はついてない感じだったんだよ」

「・・・・変身の能力ってさ、人格ごと変身できるんじゃないの?」

「えっいやいやいやいやそれはないって!」

「いい?いかる、これはあくまでも私の仮説ね?

 “能力”が薬物由来で覚醒してることを考えると脳からの能力の信号が体全体に回って外部に放出すると考えたら理屈は通る。

 それをベースに考えると、変身の能力がどこまで作用するのかわからないけど、一番最初に影響を受けるのは脳なんじゃないかな」

「脳が影響を受けるって?」

「つまり、脳自体が変身相手のソレに変身していて、その影響が体全体に及んで変身しているんじゃないかなって」

「流石に物理的に不可能じゃ」

「ねぇいかる、前に一回超回復みたいな症状の人がいたって言ってたじゃん?」

「あ」

「そう言うこと。つまり変身するたびに全身の細胞を破壊して変身相手の細胞に作り替えてる。で、作り替えるための資料としていかるの能力が必要と考えれば筋はなんとか通らない?」

「考えられなくはないけど・・・そしたら毎回私の姿で人襲ってることにならない?」

「なるね・・・」

「あーもう最悪・・・絶対濡れ衣着せられてんじゃん」

「ははは・・・ドンマイ」

「・・・けどそんな能力、変身するたびに激痛で気失ってもおかしくない。なんでそんな能力・・・」

「ねぇ、るんるんはなんでその能力になったの?」

「私のは能力じゃなくて症状と技術だよ」

「あぁそっか。でもさ、この能力って自分の中にある強い気持ちが作用してると思うんだよね」

「うん」

「たぶんだけど、この子はさぁ・・・自分が嫌いで仕方なかったんだと思うよ」

「自分が嫌い・・・?」

「うん、理由は色々あるだろうしわからないけど、とにかく別人になりたかったんだと思う。よっぽど人生が辛かったんだよ。だから変身の痛みにも耐えられるんじゃないかな」

「・・・・りんりんはすごいね」

「大した話してないよ」

「ううん、私そういうのわかんないもん。その人のプロフィールはわかっても中身っていうか、心まではわからない」

「私のもただの妄想だけどね(笑)

 でも、そういう気持ちが今のるんるんの”技術”になったんじゃない?」

「・・・・・・ねぇ」

「うん?」

「今住んでる家さ、私一人だと広いんだ」

  沈黙

「どう・・・かな」

「今の仕事で・・・ちゃんと成果を出せたら住もうかな」

「・・・・・うん、待ってる」

「・・・その頃には法律も味方してくれるよ」

「・・・そうだね」

「今度さ、旅行行こうよ」

「いいね、行きたい」

「どこ行こっか?熱海?箱根?草津?」

「温泉行きたいんだ」

「行きたいねー。ま、おいおい決めていこうよ」

「そうだね。なんか今日はありがと」

「ん?なにが?」

「あはっ、おやすみ」

「はーいおやすみー」

 

 ーーーーー音声通話が終了しました。

第一章完

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