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第2話 密やかな準備


追放されたエリザベスが足を踏み入れたのは、アストリア家が代々所有する田舎の古びた屋敷だった。


かつては避暑地として使われていたこの場所も、今では彼女の流謫(るたく)の地となっていた。


重々しい扉が閉まる音と共に、エリザベスは深い溜息をついた。窓から差し込む薄暗い光の中、埃っぽい家具や色褪せたカーテンが、彼女の新しい現実を物語っていた。


「お嬢様、お荷物はこちらに」


年老いた執事のジェームズが、静かに声をかけた。彼は、エリザベスに付き従う数少ない忠実な使用人の一人だった。 


「ありがとう、ジェームズ」


エリザベスは微かに頷いた。


「私に必要なのは、書斎の鍵だけよ」


ジェームズは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに従順な態度に戻った。


「かしこまりました」


書斎に足を踏み入れたエリザベスの目に飛び込んできたのは、壁一面を覆う古い書架だった。埃をかぶった古書の山。そこには、彼女の復讐計画に必要な全ての知識が眠っていた。


「さて、始めましょう」


エリザベスは決意に満ちた表情で、最初の本を手に取った。それは古代魔法の研究書だった。魔法は貴族社会では軽視されがちな学問だったが、その潜在的な力を彼女は知っていた。


昼は経済学と法律の書物に没頭し、夜は魔法の研究に費やした。眠る時間さえ惜しんで、エリザベスは知識を吸収していった。


「魔法の基本は意志の力...経済は需要と供給のバランス...」


彼女の脳裏に、複雑な魔法陣と株価のグラフが交錯する。時に挫折し、時に躓きながらも、エリザベスは決して諦めなかった。


月日が流れるにつれ、彼女の部屋には魔法の実験道具と経済新聞が積み重なっていった。かつての華やかな令嬢の姿は影を潜め、その代わりに冷徹な知性を宿した女性が誕生しつつあった。


「もう少し...もう少しで準備が整う」


エリザベスは、窓から見える満月を見上げながら呟いた。彼女の瞳に宿る決意の光は、月明かりよりも鋭く輝いていた。復讐の舞台は、着々と整えられつつあった。



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