part58
灼熱に包まれた国、『炎の国』この熱さえあれば、今現在世界を巻き込んでいる冬の問題を解決できるかもしれない。しかし、この国にもとある問題がある。
キール「はあ…水足りない…」
深刻な水不足。火山地帯故に水が少ないということは言うまでもないが、それでも類を見ないほど致命的なまでに枯渇し始めている。キールにとってはまさに
死活問題だ。
キール「そもそも…作物用に水を引いたけど、飲料用がない…ここは鉱山地帯がほとんどだから、そこらの水なんて飲んだら死んじゃうよ…」
キールも優しい性格をしている。その無限水筒を独り占めするのではなく、民たちに分け与えるために歩き回っているのだ。地質上どうしても貧しくなってしまうこの国の聖人と言っても差し支えない。
キール「あ…また違法なことを…」
キールの目線の先には、鎖に繋がれて歩かされている人々がいた。鎖の持ち主は、醜い顔をした男。まるで物を扱うかのように彼らを連れている。彼らは『病』を患っている者たちだ。先祖代々その病を受け継いでしまい差別され、奴隷として売られている。無論それは表面上は悪事に該当するのだが、病の感染確率や人々の風評被害から蔑まれ続けている。
キール「すみません、そのヒトたちをどうするつもりですか?」
男「…表のお偉いさんが何の用だ。まさか買うつもりか?」
キール「貴方の行動を止めに来ただけですよ。奴隷として販売するのは違法行為です。人権侵害ですよ」
男「何を綺麗事を…いくらアンタでも、ここで無駄に殺生をするわけにゃあいかんだろ。だから見捨てる。今までもそうだったのに今回はダメとは言わないだろ」
キール「いえ、僕は今までだって、貴方たちのような人を何度も止めてきました」
キールは男の目を見て、その目の奥底に語りかけるように吸い込む。吸い込む、と一口に言っても、物理的に吸うわけではない。自身の一定の範囲に収める『制限』の力。ここにあの男の意識を収容した。
キール「貴方の一定範囲の行動を制限します。奴隷販売に関する行為、貴方が誰かに危害を加える行為を『制限』」
男「なっ…!バカな真似をしやがって…!」
反抗的な男の態度がどんどん萎縮していき、最終的には奴隷たちの存在を忘れて当てもなく立ち去った。
キール「もう大丈夫ですよ、私の方で食い扶持や居住区を用意しますからね」
奴隷「ああ…ありがたい…神様だ…」
感嘆の声を漏らしながら、彼らの目に光が戻ってくる。縋り付くようにキールに着いていく一行は、これからの新生活に想いを馳せるのだった。




