part57
日頃冷たいクルーにも、実は繊細な部分がある。誰にでも秘密があると言うように、物悲しい事実を彼女は心の奥底に隠しているのだ。
クルー「…姉さん、やっぱりあなたに会いたい」
クルーは誰かに言うわけではなく、独白するように、鏡に映る自身の白い髪と赤い目、そしてコウモリのような翼を見つめる。自分は吸血鬼、陽の光の中を翔けない哀れな化け物。幼い頃に自身の姿を嫌った母は、姉と自分を生き別れにさせた。比較的吸血鬼の血が薄かった姉を連れて父と自分を捨てていった。その姉の優しい眼差しと、抱きしめてもらった暖かさを、何十年かけても忘れることはできなかった。
クルー「きっとどこかにいるんだわ…だけど、どこにいるのかいまだに分からない…自信がなくなるわね…笑わせてくれるじゃない…姉さん」
豊かな白髪と赤い目は変わらない。だが、そんな特徴的な姿を広めても、何一つ手がかりを掴めない。もう、この世にいないのだろうか?
???「クルー様、また机が散らかってますよ」
クルー「医者というのはそういうものよ、リリ」
リリ「まるで兄のようなことを言わないでください…」
???「んあ?俺のこと?」
リリ「またロイ兄サボってる!しかもこんな場所で!ここはロイ兄の部屋じゃなくて診察室でしょうが!」
ロイ「だってよぉ、ここの空気すげぇ気持ちいいんだぞ。空気清浄機がちゃんと作動していることを報告する仕事だと思ってさ、見逃してくれよ」
診察室で押し問答する双子のロイとリリ。ロイの方が兄であるはずだが、あまりにも怠け放題。仮にも騎士であるのになんともだらしない。
ロイ「あ、そうだ。クルー様に薬草渡さなきゃと思って来たんだった」
クルー「その仕事放棄したら海底に沈めるからね?」
ロイ「この海中病院より下の海には行きたくないから真面目にやらなきゃかぁ」
リリ「そうじゃなくても仕事はきっちりやってよ!死んだカー兄に顔向けできないよ!」
ロイ「カー兄出すのは反則じゃん…」
クルー「ここは診察室なんだけど、いつまで駄弁ってるつもり?」
リリ「ほら!早くロイ兄も行くよ!」
ロイ「ぐぇ!首を掴むなって!」
襟元を掴んで引き摺りながらリリはロイを診察室から連れ出した。海の静けさがどんどん戻っていく。その静かさの中に響く機械音や生物の鳴き声が、クルーを現実に連れ戻す。まるで戦争が止まった静寂を忘れさせるように。なんて私に対して汚い海なんだろうと、海の中にある病院の窓から見て感じた。




