part54
あの極寒の冬が訪ねてくる黒い岩山。ミラーとミケは2人でガードの帰還を待っていた。魔石のことだけ
でも分かればいい、深追いは絶対にしない、命の危険があれば即時撤退という約束を2人はガードと事前に交わしていた。契約書ではなくただの口約束ではあるけれど、今はこの程度でもいいくらい目に見えて危険であるのだ。
ミラー「魔力反応はないね…」
ミケ「ミラー様は魔力探知に非常に長けています
から、私たちではもう完全に分かりませんね」
ミラー「その代わり僕は眼が見えないから、視覚の
分野は頼むよ。僕はガード様の顔なんて
分からないから、そっくりさんで見分けが
つかないなんてなったら困るからね」
肌に冷たい風が吹き当てる。しかも痛い。この痛さは凍傷だろうか。
ミケ「…雪ですね。こんなに小さな粒であるのに痛い
だなんて」
ミラー「それくらい冷たいってことだね…」
ミケ「ガード様はご無事でしょうか」
ミラー「まだ魔力探知はできる範囲。とはいったけど
流石に怪しくなってきた…」
ガードからの連絡もないためただ待つしかない。寒いからこそ動いた方がよいのだろうがそもそも敵の陣営に自爆レベルの覚悟で相手を討とうとしているのに
生きて帰れるかも分からない。その間雪が積もって
くる。詩的に誰かの悲しさや孤独を表しているのではない。足首が埋まるほどの雪の深さに誰も歓声は上げなかった。
ミラー「あ!ガード様!よかった…よくぞご無事で」
ガード「何とか麓まで降りれてよかった。話すべき
事項もいくらかある。国へ帰るぞ」
ミラー「かしこまりました」
ミケ「…ん?」
ミラー「どうかした、ミケ?」
ミケ「あの山、なんだか不思議な感じです。変という
よりも、まるで自然すぎると言いますか」
ガード「言わんとしていることは分かる。だがそれも
踏まえて新しいことを共有したい。これから
先また何かあるかもしれないから気を緩め
ないように」
3人と『風の国』の傭兵たちは隊列になって歩いて
行く。山から離れて行くにつれて比較的暖かくなっていくけれど、これでも『風の国』の年間の平均気温は20℃近くである。感覚麻痺が激しいほど寒いのだ。
ガード「…取り敢えずあそこ一帯に敵はいなかった。
つまりあれはただの自然災害だ」
ミラー「どうしてそのような自然災害がここ数年で
顕著になったのでしょうか。あ、直接的では
なく間接的に奴らが関わっているとか?」
ガード「いやそうでもなさそうだ。あれの原因は
もっと他にある」
ミケ「紅茶をお持ちしました、よく体を休めて温めて
くださいませ」
ガード「すまないな、それで話を戻すが、あの猛吹雪
及び大寒波の原因はズバリ魔力過多だ」
ミラー「自然魔力に過剰があるのですか?!」
ガード「正直俺も驚いた、だがこれを見れば話は別
だろう」
ガードは如何にも頑丈そうな袋から薄い紙のような
ものを1枚取り出す。とても綺麗なその紙は、なんと
花弁であった。
ミラー「これは…『永氷華』でしょうか」
ガード「この『永氷華』には膨大な魔力消費と生成が
確認されている。これが何千本もあの山に
生えていた。この花は常に冷気を吐き出し、
触れるものは全て凍らせてしまう。魔力を
溜める力が強すぎるからだ。数少ない氷の
魔術の使い手なんだよコイツらは。そして
コイツらが密集していたら…どうなるか想像
に難くない」
ミラー「魔力反応でも起こしたら爆発的に冷気が
広まる…しかも反応は繁殖ごと。花粉を
飛ばすように繁殖する。しかも性質上駆除は
難しい。だから相手も手を出さない。…天然
の要塞みたいですね」
ガード「ミケは何を感じた?」
ミケ「…私が感じたのは、あり得ないほどの統一感と
言いますか、何だか山に自分が心配されたり
する感覚、私の隣にいつの間にか誰かがいる
ように感じました。そのようなことは今まで
なかったので焦りました」
ガード「待て、じゃあ誰かが住んでいるとでも?」
ミケ「あり得ない…という訳でもないはずですから
念のためであります」
兎にも角にも敵の仕業ではなかった。寒波の対策を
するだけでも何年もかかるだろうが、悠長にいられるのも今のうち。今後も魔の手からシチフクを守る勇気ある戦争が続いていくのだ。




