エンディング 2つの糸が織り成すもう一つの糸
あんな事件が起きたにも関わらず、まるで何事もなかったかのように、時間はいとも簡単に過ぎてゆく。気づけば、二人の間に子宝も恵まれていた。
二人はあれから結婚したのだ。
「パパー!ママー!聞いてよー!」
「あら、どうしたの?」
女の子だった。とても活発な子供で、いつも元気に遊び回っている。
だけれどどうやら、そんな幼稚園の娘にも何か悩みでもあるようで、普段の快活さには翳りが見られた。まるで人生の一大事な問題にでも遭遇したような、そんな真剣な表情をしているのだ。
二人は数年前に一軒家を購入して、都心の中で生活している。お互いが仕事に就き、いつも子育てとの両立で少しばかり忙しい生活だ。
初夏の週末、丁度今今日は午前を過ぎた、暖かな午後であった。部屋の窓から日が差し込んできている。仕事は休みなので、二人は娘と一緒に、リビングで時間を過ごしていた。
夫は趣味をしていた。私はそんな彼の後ろ姿を眺めながら、ソファーに座り紅茶を飲んでいた。すると娘も私の隣に座ってきた。
「あのね……私、その、好きな人……居るんだけど……」
幼稚園児である娘は、既に恋愛まで経験しているようだった。
「でも、その……告白の仕方が分からなくて……」
どうやら娘は初恋について悩んでいるようだった。
そんな話を聞くと、二人はつい、笑顔を綻ばせてしまった。数十年前、二人は高校生の時、あんな体験をしたのだから。
「それなら、面白い昔話があるんだが、聞いてみるか?」
「え、昔話……?」
夫が趣味を一旦止めてから、振り向きざまにそう言うと、娘は困惑した様子で、そう首を傾げた。
そして娘は、好奇心に満ちた双眸を向ける。
「それって、私のことと関係あるの……?」
夫がソファーに座ることで、私、娘、夫が一列に座りながら、並んだ。
「ええ」
「そうだぞ」
「なら、聴きたい!」
娘は顔を煌めかせて、そう言った。
「一体どこから話すべきかな」
「最初からで良いんじゃない?」
葵はそう告げる。
「よーし!少しだけ長くなるぞ。覚悟は出来てるか?」
「うん!」
娘は元気よく頷いた。
「もうずっと前の話、なんだけどね……」
葵が小さくそう言うと、お互いの顔を見て、微笑んだ。
リビングのテーブルには、一つの写真台が置かれていた。それは、生まれたばかりの赤ん坊と二人が一緒に収められている写真だった。そして写真台の周りには、繋がった二人の青い糸が結ばれている。
「昔々、ある所に、運命の青い糸で結ばれた二人がいました――」
織り成された二つの青い糸は、もう一つの美しい糸をも紡いでいった。