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第三話 帰宅後、弦理論の勉強。その後、起床。

「えっと、超弦理論で、検索っと」

 自宅に帰宅してから、私はパソコンでひもについて調べていた。

「あったあった、これだ」

 そして検索エンジンに適当なキーワードを乗せていくと、お目当てのページが見つかった。


「超弦理論、ねえ」

 名前だけは聞いたことがある、物理の理論だ。

 世界は弦で出来ているという、現段階の科学的な視点からは特異な光を放つ、人類が真実を追い求めようと果てなき創造性を以て到達した最も美しい理論の一つだ。発展段階に於いて数学的な正しさは幾度となく批判から耐えてきてたものの、実証実験の根源的な難しさに、その理論的実証性が未だに証明されないので、とんでも科学やら、SFの域から出ることが出来ない、可哀想な理論でもある。


 でもここで不思議な点に行き当たる。弦理論がもし世界の真理だとしても、ひもは小さいので、肉眼で見ることは出来ないし、さらには現段階の最新科学の力を持ってしても発見することさえも不可能なのである。

 さらにはひもというのは、本来ならば三次元よりも高次元に存在しているため、見えても、そもそもこうやって触ることさえも出来ないのが定説だ。


 私は基本情報を調べることにした。まずは紐の大きさについて。

「ひもの大きさは、えっと……うそ!」

 私は大声を上げた。

 10-35[m]らしい。それがどれくらい小さいのすら、私には検討もつかなかった。

「えっと、それってどれくらいなの……?」


 さらに弦理論の勉強を続けていく。

「原子よりも、陽子よりも、素粒子よりも小さい……」

 つまり小さい。それも圧倒的に。いいや科学的に言えば、プランクの長さ、つまり理論上最も小さい。

「だったら、どうして私には見ること出来て、触れることも出来るの……?」

 疑問だけが膨れ上がっていく。そして解決の糸口を見出されることもなく、


「もう、諦めたー」 

 と、その美しい理論の探求を投げ出そうとした時、ネットのページ下部に、面白いリンクを見つけた。

「総弦理論……?」

 クリック。

 すると、私は面白いページに行き当たった。


 総弦理論。

 というのも、弦理論自体は様々あるらしく、それらを一つに纏め上げる仮定の理論らしい。現代において最も有力な統一理論の候補として提唱されるものだが、未だに証拠は発見されていないとのこと。

 もしかして、私が今こうやって触っているのは、普通の弦ではなく、この総弦理論に関する特別な弦なのかもしれない。肉眼で見える程に大きさがあり、そして触れることも出来る。


「……」

 じーっと、青い糸に視線を注ぎ込む。

 グラデーションのない残酷なまでに調律された美しい青色の糸。全身のどこにも鋭利な部分を宿していないにも関わらずまるで世界を真っ二つに切り裂くほどの迫力を持ちながらも、何故か、そこには分断された世界を優しく包み上げる包容力をも同時に備えている。


「綺麗……」

 青い糸。

 これを持っているのは、私だけ、なのだろうか。それとも。

 そして青い糸を眺めたまま、私は眠りについてしまった。



 朝。

「あっれ、金縛り……?」

 瞼を開く。

 視界には青色で埋め尽くされていた。いいや自室に青い線が走り渡っている、という表現のほうが正しいかもしれない。

 視線を下に移動させていく。そこには衝撃的な光景が待ち望んでいた。

「な、なにこれ」


 簡単に言うと、私の身体は青い糸に雁字搦めにされていた。

 えっと、わかりやすく言うのなら、あれだ、あの、SMプレイのあれ。Sのほうじゃなくて、Mの方の人が縄で縛られるあれだ。


「カラビ・ヤウ多様体みたい……」

 自分の身体を見て、私はただ呆然としていた。

「これが世界の真実なの……?」

 どうやら昨晩、青い糸を気にしすぎてて、それを操りながら寝たらしい。だから睡眠中にここまで伸ばしてから、自分の身体に巻き付けたらしい。

 どうやって青い糸を解こうか、と寝ぼけた頭で思考していると、部屋の外の廊下から足音が。




「お姉ちゃん!早く起きないと、遅刻するよ!」

 最愛なる妹によるものだった。さらに、ガンガンガン!と部屋の扉を叩きつけてくる。

「は――!?」

 そこで私は自分の境地の危険性を悟った。

 もしこのまま妹が部屋に入ってきたら、完全に誤解されてしまう。私は青い糸で縛られる事が好きな変態女子高校生だって。


「待って!開けないで!自分で行くから!」

 と必死に熱弁するものの、私のいつもの怠惰が祟ったのだ。

「お姉ちゃん、いっつもそんな事言って、起きてこないじゃん!」

 妹は懸命なる判断によって、実の姉の指示を拒絶して、部屋の扉を開いた。


 がちゃり。

「お姉ちゃん!はや……って、え……?」

 妹は硬直した。


「あの、その……これ、解いてくれますか……?」




 沈黙が耳をつんざき、魂を貫く。まるで己の魂の深淵、最奥部を覗かれているような、そんなむず痒さが、そこにあった。

「よいしょっと、これでいい?」

「うん、あ、ありがとう……」

 妹の手伝いもあって、無事に私は青い糸から開放された。

「ちゃんと、朝ごはん、遅れないでね……」

「うん、分かった……」

 妹は見てはいけない光景を見てしまったという顔を浮かべながら、部屋から去っていった。

 

「死にたい……」

 と呟きながら、私は解かれた青い糸を再び眺める。

「あれ?」

 すると解かれた青い糸は、大きく丸い輪っかになっていた。そして不思議なことに、輪っかの中は何故か異次元にでも繋がっているかのような相貌を見せていた。

 私は好奇心に負けて、まず青い糸を反時計回りに回転させ、時間の流れを少しだけ緩めてから、中に入っていった。




「え、ええ、えええ!!!???」

 青い糸の中に入ると、そこには異国の地であった。

「Hey, you!What the hell do you think you"re doing here?」

「は、はい?」

 私は英語で注意されたらしい。

 それも当然だろう、ここはアメリカ合衆国のニューヨークシティーなのだから。通行人の邪魔になっているらしく、私は怪訝な視線を浴びせられる。


 なので私はすぐにアメリカから青い糸を使って移動した。すると次の位置では、なんとリオのカーニバルの真っ最中だった。

「あ、リオのカーニバルだ!凄い!」

 と初めて生で見れば感想を述べた。


「Sempre tem que haver um pouco de dança no começo!」 

 ブラジル人達は陽気に異国の者に対してカーニバルの参加を求めてくるのだが、それでも私は拒否せざるを得なかった。

「ごめんなさい、えっと、私はこれから学校なので……」

 もちろん日本語は通じない。


 朝から私は青い糸による世界一周を決めたのだが、これから学校があるので、お暇しなくては。えっと、生で見るリオのカーニバルは凄かった。

「Tchau!」

 ブラジル人にお別れを告げてから、青い糸を使用、私は地球のマントルを超えて、自室に戻ってきた。そこで私はこれまでもおさらいをしたのだ。


「この青い糸には……」

 つまり、青い糸には大きく3つの能力があるということだ。

 1つ、天候を変える能力

 2つ、時間を変える能力

 3つ、空間を超える能力


「大変……」

 これらが揃えば、人類の歴史さえも、容易に変えることが出来るはずだ。

 私の魂は戦慄した。なぜなら、私の手に握られている青い糸は、正しく使用される必要性があるから。そしてこれは決して悪い人間に渡されてはいけない。

 


 それから数分の事。

 青い糸による世界一周旅行から自室に戻ってからリビングに到着、朝食を食べた。もちろんその間、不可思議な沈黙が包んでいたというのは、言うまでもない。

 妹は私の性癖について、誤解してしまったのだ。


「お姉ちゃん、辛いことがあるんだったら、私にもっと頼っていいからね」

「あ、うん……」

 そう言われると、さらに辛いのだ。

 だってよじれた性癖は犯罪でもなければ、それは決して精神異常でもないからだ。ただみんなが、それを積極的にさらけ出さないだけ。

 

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